政治資金オンブズマン

日本維新の会が「文書通信交通滞在費」を「政治資金」と説明するのは“公金の私物化”のためだ!

はじめに

 「日本維新の会」の池下卓議員は、昨2021年衆議院総選挙で当選直後からNHK「日曜討論」に出演して、税金が原資の「文書通信交通滞在費」について「任期1日で100万円出る。世間の常識では考えられない」などと述べ、その問題の火付け役になり、「身を切る改革」を広く宣伝している「日本維新の会」の「若手の改革のエース」と持ち上げられました。

 しかし、「週刊文春」のスクープ報道もあり「池下卓後援会」の各政治資金収支報告書を調査・分析したところ、「政治とカネ」問題について違法行為を行っているとして刑事告発したことは、すでに紹介しました。

維新の「若手の改革のエース」池下卓・衆院議員らを政治資金規正法違反(寄附の個別制限違反と収支報告書不記載罪)で告発しました

 今回は、税金が原資であり「地方議会における政務活動費」に相当する、各国会議員に交付される「文書通信交通滞在費」(月100万円、年間1200万円)について、「日本維新の会」が、それを「政治資金」だと間違った説明をして政治活動のために私物化しているという重大な問題を指摘します。

1.「日本維新の会」の「文書通信交通滞在費」についての認識・説明

 「日本維新の会」は、所属の衆参国会議員の各「文書通信交通滞在費」の使途を同党のホームページでインターネット公表しています。それ自体は、一切公表しない自民党等に比べて評価できることですが、問題は、使途のあり方を左右する、同党の「文書通信交通滞在費」の法的性格についての認識・説明です。

「日本維新の会」は同党のホームページで「文書通信交通滞在費」について次のように説明しています(https://o-ishin.jp/news/bunsho/)。

文書通信交通滞在費とは

国会議員一人当たり月々100万円、年1,200万円もの税金が、その使途も公開されないまま使われています。これが「文書通信交通滞在費」です。政治資金の流れを透明化し、国民の皆様への説明責任を果たすためにも、日本維新の会はこの「文通費」を公開致します。

我々は文通費公開に限らず、これからも身を切る改革を実行していきます。

 この説明には、幾つか重大な疑問・問題があります。

2.「文書通信交通滞在費」の使途公開は「身を切る改革」ではない

 その第一の問題は「文書通信交通滞在費」の使途を公開することが「身を切る改革」の実行だと説明していることです。公金の使途を公開することは国民の「知る権利」を保障することになるので、「国民の皆様への説明責任を果たすため」と説明しているのは妥当なのですが、しかし、「文書通信交通滞在費」の一部を受け取らないとか、使い切らなかった残金を国庫に返還するというわけでもないのに、その使途を公開することが「身を切る改革」の実行だと説明することには強引な説明すぎます

 その上、「身を切る」という認識であれば通常心理的に躊躇する気になる傾向がありますので、本気で国民の「知る権利」を保障して「国民の皆様への説明責任を果たす」気があるのか不安を抱かせます(この点は後日具体的に指摘します)。

3.「文書通信交通滞在費」は政治資金ではない

 第二の問題は、「政治資金の流れを透明化し」という表現で明らかなように、「日本維新の会」が「文書通信交通滞在費」について「政治資金」だと認識・説明していることです。この認識・説明は、法的に厳密な議論をする立場からすれば、明らかに間違いだからです。

 そもそも「文書通信交通滞在費」は「政治資金」ではありません。それどころか、「政治資金」にしてはならない公金です。

 国会法第38条は、「議員は、公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため、別に定めるところにより手当を受ける。」と定め、「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」第9条第1項は、「各議院の議長、副議長及び議員は、公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため、文書通信交通滞在費として月額百万円を受ける。」と定めています。

 以上の各定めにおいて重要なのは「公」という文言による限定です。これはその使途を公のものに限定することになります。「文書通信交通滞在費」は、主権者国民の代表者である議員らの公的活動に必要な経費の一部を公金で負担しているのです。したがって、「文書通信交通滞在費」は、公ではない私的な活動である政治活動・後援会活動・選挙活動には使えない、使ってはならない公金なのです。

 もちろん、公的な活動で使ったものを、政治活動などで活用することは自由ですが、そもそも公的活動のためではないのに、初めから政治活動などのために使うことは法的に禁止されているのです。

 この点につき参考になるのは、衆議院議長の諮問機関「衆議院改革に関する調査会(座長・瀬島龍三NTT相談役)」が、2001年の答申において、「文書通信交通滞在費は実費弁償的なもの」と説明していることです(「衆議院改革に関する調査会答申」(2001年11月19日)(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/ugoki/h13ugoki/153/153chosa.htm))。

立法事務費及び文書通信交通滞在費は実費弁償的なものであり、議員活動に必要不可欠であるものの、領収書等を付した使途の報告書の提出を義務付け、報告書を閲覧に供するべきである。

4.地方議会における政務活動費と本質的には同質

 以上のことは、「地方議会における政務活動費」(以前は政務調査費)の場合と同じように考えればわかりやすいかもしれないません。

 地方議会における会派または議員に対し交付されている「政務活動費」は、会派または議員が議会活動という公的な活動のために要する経費の一部を負担している公金ですから、政治活動・後援会活動・選挙活動に使うことが禁止されているのです。

 この論理は、基本的には「文書通信交通滞在費」にも妥当します。つまり、「文書通信交通滞在費」は、「政務活動費」と同じように、政治活動などには支出してはならない公金なのです。

 「日本維新の会」の前述の説明では、このことが正しく認識・説明されておらず、明らかに間違った認識・説明になっているのです。

 なお、「文書通信交通滞在費」と「政務活動費」の違いは、「文書通信交通滞在費」は議員の公的な活動のための「文書費」「通信費」「交通費」「滞在費」に限定されていますが、「政務活動費」は、それらに限定はされないことです。

5.「文書通信交通滞在費」を政治活動に流用できるのなら公金の二重取り!

 政治活動のための公金としては、政党助成に基づく政党交付金(政党助成金)制度があります。もし「文書通信交通滞在費」を政治活動に流用すれば公金の二重取りになってしまいます。このことからも「文書通信交通滞在費」が政治活動に使ってはならないことは明らかです。

 すでに紹介したように「日本維新の会」は、自民党などと同じように政党交付金の交付を受け、年末にその残金が生じても基金・支部基金をつくってその残金を繰越し、国庫に返還していませんでした(「日本維新の会」も政党交付金の「身を切る改革」なしで残金を国庫に未返還(2020年は約15・4億円)(https://seijishikin-ombudsman.com/topics/7887.html))。「文書通信交通滞在費」を政治活動に流用できるのであれば政党交付金制度は廃止すべきです。しかし、「日本維新の会」は「身を切る改革」を実行する政党と宣伝しながら政党交付金の廃止を主張しないどころか、その縮小さえ提案していません。

6.使途報告書の書式の問題

 「日本維新の会」の「文書通信交通滞在費」についての間違った認識・説明は、同党の作成した「文書通信交通滞在費」の使途報告書の書式にも反映しています。

 同党の使途報告書の書式を見ると、まず、「経常経費」の使途と「政治活動費」の使途をそれぞれ記載するようになっているのですが、これは、政治資金収支報告書と同じ構成です。また、それゆえ当然であるかのように、「政党支部繰入(寄付)」や「資金管理団体繰入(寄付)」という使途項目があるのです。

 そもそも「文書通信交通滞在費」の使途報告書の書式は、本来、「文書費」「通信費」「交通費」「滞在費」等と区分・構成されなければいけないはずですが、「日本維新の会」作成の書式は、「経常経費」「政治活動費」「政党支部繰入(寄付)」「資金管理団体繰入(寄付)」と区分・構成されているのです。これは、「日本維新の会」が「文書通信交通滞在費」を「政治資金」と法的に同じとみなしているからなのです。

7.違法支出の「自白」と国の制度的欠陥

 そもそも各公金はそれぞれ法律で特定された目的のために支出することが義務づけられていますので、その目的以外のための支出がなされれば、それは違法です。

 地方議会における政務活動費は政治活動・選挙運動・後援会活動に支出すれば違法です。それと同じように「文書通信交通滞在費」は政治資金ではないので、政治資金として支出することは違法です。「日本維新の会」の作成した「文書通信交通滞在費」の使途書式は、同党議員は明らかに違法支出をしますと「自白」していることになります。

 もっとも、「文書通信交通滞在費」の法的性格について十分な理解のない者にとっては、国会に議席を有する政党が堂々と違法を「自白」するとは思わないでしょうから、「日本維新の会の書式は文書通信交通滞在費の使途報告の書式として当然なのだろう」と勘違いする者があるかもしれません。

 もしかすると、それを意図的に狙っているのかもしれません。そうであれば、単なる法的無知に基づくものではなく、作為的で悪質です。

 また、地方議会における政務活動費についは、違法な支出をすれば監査請求や住民訴訟により住民が地方自治体への返還を求めることができますが、国については、このような制度がないがゆえに返還を求められることがないので、「日本維新の会」は、その制度的欠陥に乗じて公金の違法支出を強行しているのでしょう。この点でも悪質です。

8.公金の私物化(文書通信交通滞在費の政治資金への流用)

 要するに、「日本維新の会」は、国会議員の政党支部や資金管理団体に「文書通信交通滞在費」を違法に寄附しておきながら、「文書通信交通滞在費」の使途公開が「身を切る改革」でもないのに「身を切る改革」だと強弁して堂々と公金の私物化をしてきたのです。

 今から2年半ほど前の2019年7月の報道によると、「日本維新の会」の衆参国会議員が2015年10月~2019年3月までの期間に受け取った文書通信交通滞在費は、約7.6億円であり、そのうちの約5.7億円が、所属議員が代表を務める政党支部や資金管理団体などに寄付されていました(「維新に5.7億円もの“セルフ領収書”疑惑 参院選直撃は必至」日刊ゲンダイ2019/07/19 14:50(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/258633))。

 つまり、2年半ほど前の時点で、公金の75%を私物化していたことが報道されていたです。

9.政党支部や資金管理団体への寄附はやむを得ないか?

 もっとも、これには、“毎月100万円の「文書通信交通滞在費」を全額使いきらない場合、その残金を国庫に返還したくても公職選挙法で公職の候補者の寄附が禁止されているから、国庫への返還もできないので、やむを得ず政党支部や資金管理団体に寄附しているのだ”という反論が予想されます。

 しかし、①月末に使い切らなかった残金は翌月に繰り越せばよいのです。現に「日本維新の会」の国会議員の中には、毎月ではないものの、翌月に繰り越しをしている議員がいます。この繰越を毎月繰り返せばよいだけなのです。

 そして、②法律が改正されて国庫への返還が法的に許容されるようになったときに残金の全額を国庫返還すればよいのです。あるいは、国会議員を辞めた時や、次の選挙に立候補せず、または次の選挙で落選し、かつ公職の候補者でなくなった時に、国庫に残金を全額返還すればよいのです。

 したがって、“「文書通信交通滞在費」を政党支部や資金管理団体に寄附するのはやむを得ない”という説明は、“公金の私物化”を見破られないための詭弁にすぎないのです。

10.公金を私物化する政党は「身を切る政党」ではない!

 以上のように、「文書通信交通滞在費」を政党支部や資金管理団体へと違法に寄附して公金を私物化して「身を肥やして」おきながら、「身を切る改革」を実行する政党(身を切る政党)と豪語するのは、まるで詐欺師のような手口と評さざるを得ません。

 この点でも同党はやはり「身を切る政党」の看板を下ろすべきです。降ろさないところに同党の厚顔無恥さが現れていると評さざるを得ません。

(つづく)

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