「日本維新の会」も政党交付金の「身を切る改革」なしで残金を国庫に未返還(2020年は約15・4億円)
はじめに
「日本維新の会」は、これまで紹介しているように、“説明責任を果たす「身を切る改革」”を掲げており、既存の法律に基づく制度そのものに対しても独自の立場で異論を述べ、それが同党の「身を切る改革」だと強調してもいます。
その代表例の一つが昨2021年10月末の衆議院総選挙で初当選した新人議員が「文書通信交通滞在費」につき「任期1日で100万円出る。世間の常識では考えられない」などと述べたことでした。
「文書通信交通滞在費」は、国会法などの法律に基づいており、原資は公金(税金)であり、衆参の各国会議員に交付されるものですが、同じように公金(税金)が原資で法律に基づく制度としては、政党助成法に基づき政党に交付される政党助成金(政党交付金)があります。年間318億円もありますから、「身を切る改革」を看板に掲げて広くアピールしてる政党であれば、政党助成金制度についても何らかの形で「身を切る改革」を主張していたり、あるいは、独自に「身を切っている」と豪語していても不思議ではありません。
そこで、「日本維新の会」は、この政党助成金制度について、どのような立場なのか、「身を切る改革」の看板通りの立場なのか調査しましたので、その調査結果をご紹介いたします。
なお、現在の「日本維新の会」は、2015年に「維新の党」から離党した大阪グループの議員らを中心に結成された国政政党です。同年10月31日に国政政党「おおさか維新の会」の結党大会を開催し、橋下徹大阪市長(当時)が代表に就任しましたが、11月の大阪知事選で当選した松井一郎幹事長(当時)が12月、代表に就任しました。2016年の前半までは「おおさか維新の会」という党名でしたが、同年8月23日に現在の「日本維新の会」に改名しました(総務省報道資料「平成28年分政党交付金の変更決定」2016年8月31日(https://www.soumu.go.jp/main_content/000436673.pdf))。
1.政党助成金制度の改革提言なし
(1)「身を切る改革」のページ
まず、政党助成金制度それ自体について「日本維新の会」は、どのような立場にあり、何らかの改革の必要性を訴えているのでしょうか?
同党のホームページ(https://o-ishin.jp/)の一番下の辺りに「身を切る改革」のページの案内があります(https://o-ishin.jp/miwokiru/)。そのページの冒頭には、「・・・まずは、政治家自らが身を切る!」と明記しています。しかし、そのページには「政党助成法」「政党助成金」「政党交付金」のいずれの文言そのものが見当たりません。
(2)「日本維新の会 政策提言 維新八策2021」
そこで「日本維新の会 政策提言 維新八策2021」(https://o-ishin.jp/news/2021/images/3858edd04d0a9813e048310faac8023c0a057034.pdf)を見てみました。しかし、ここでも「政党助成法」「政党助成金」「政党交付金」のいずれの文言そのものが見当たりません。
(3)政党助成金制度を左右する衆参選挙制度の提言もなし
そもそも政党助成法によると、「政党交付金」は、衆参の各選挙結果に基づいて各政党に政党交付金が配分される仕組みです。したがって、衆議院の小選挙区選挙や参議院の選挙区選挙が過剰代表や過少代表を生み出しているので、その結果として政党交付金の過剰交付や過少交付になっているという問題があります。
そこで政党助成制度に影響する衆参の選挙制度そのものの改革を提言していないか注目してみましたが、その改革の提言もありませんでした。
2.政党交付金の受領の点で何らの「身を切る改革」の実行なし
では、次に、「日本維新の会」は、政党交付金の受領の点で何らかの独自の「身を切る改革」を実行しているのでしょうか?
この点についても何ら「身を切る改革」の実行はしていないようで、同党は、2016年以降毎年政党交付金を受け取り続けています。
「おおさか維新の会」でスタートした2016年の政党交付金の年間交付額は7億円超でした。その後、「日本維新の会」の年間政党交付金額は年々増えてきました。翌2017年は10億円を超え10・6億円弱、2019年には15億円を超え18・6億円強、昨2021年は20億円に迫る19・2億円超でした。全額税金です。
「日本維新の会」が交付を受けた政党交付金の毎年の金額
年 | 交付を受けた政党交付金 | 年 | 交付を受けた政党交付金 |
2016年 | 7億0805・5万円 | 2019年 | 15億6451・4万円 |
2017年 | 10億5966・5万円 | 2020年 | 18億5310・6万円 |
2018年 | 13億0936・3万円 | 2021年 | 19億2245・1万円 |
この点では、その手続きに一切参加せず受け取りを拒否している政党(日本共産党)とも、交付金の決定手続きだけ参加し年4回の請求を一切しない政党(かつての第二院クラブ)とも異なる立場です。
つまり、自民党などと同じように法律に基づき政党交付金を受け取っているので、「日本維新の会」は、政党交付金の受領の点で何ら「身を切る改革」を実行しているわけではありません。
3.政党交付金の残金さえ国庫返還せず!
政党助成法によると、政党交付金の残金は国庫に返還することが原則になっているのですが、例外があり、「基金」と(支部の場合は)「支部基金」をつくると国庫に返還せず翌年に繰り越しできるのです。自民党などはて残金を「基金」「支部基金」をつくって貯め込んできたのですが、「日本維新の会」は、どうしているのでしょうか?
なんと「身を切る改革」を公言しているにもかかわらず、「日本維新の会」も「基金」「支部基金」をつくって政党交付金の残金を国庫に返還してはいません。この点でも自民党などの政党の同じ体質で何ら独自の「身を切る改革」の実行はなされていません。
年間の政党交付金に占める「基金」「支部基金」の割合を算出してみました。2016年や2017年だと5%、6%程度でしたが、その後その割合も金額も増え、2020年は15億3756万円強もあり、割合は83%もありました。2019年からの繰越額「基金」「支部基金」が7・3億円もあったとはいえ、2020年は18億5310万円強も受け取っていながら15億3756万円強も使わず翌年へ繰り越していたのです。
日本維新の会の政党交付金(円)と基金(円)、その割合(%)
年 | 「日本維新の会」が交付を受けた 政党交付金 | 本部・支部の基金合計 (翌年への繰越額) | 基金の占める割合 |
2016年 | 7億0805・5万円 | 4267・9万円 | 6・0% |
2017年 | 10億5966・5万円 | 5836・6万円 | 5・5% |
2018年 | 13億0936・3万円 | 3億3968・8万円 | 25・9% |
2019年 | 15億6451・4万円 | 7億3228・9万円 | 46・8% |
2020年 | 18億5310・6万円 | 15億3756・7万円 | 83・0% |
政党交付金は全政党で年間約318億円です。一方、「文書通信交通滞在費」は議員一人月100万円ですから衆参国会議員713名(衆議院465名、参議院248名)で月7億1300万円です。最優先で問題にすべきは、年間約318億円の政党交付金の残金の国庫不返還問題の方ではないでしょうか。
「日本維新の会」の国会議員が「任期1日で100万円出る」ことを問題視して議論すること自体ことについて、あえて反対しませんが、そのことよりも、法律改正しなくても政党交付金の残金15・3億円余りを国庫に返還することはすぐに可能だったのですから、「身を切る改革」の断行を主張する政党なら、なぜ残金を国庫に返還しなかったのでしょうか?
4.「身を切る政党」として矛盾する言行不一致
ところで、「日本維新の会」は、冒頭で紹介した「文書通信交通滞在費」については毎月あるいは年度末に使わずに残った分を国庫に返還することを法律が認めていないことを理由に各国会議員が、自己が代表になっている政党支部あるいはまた資金管理団体にその残金を繰入れ(寄附)しています。
しかし、確認したように、同党は、政党交付金の高額の残金の国庫返還が法律上可能であるにもかかわらず、自民党などと同じように「基金」「支部基金」をつくって国庫返還逃れをしているのです。それなのに、「文書通信交通滞在費」については残金の国庫返還を法律が認めていないことを口実にして政党支部・資金管理団体に繰入れ(寄附)しているのです。
これでは、「身を切る改革」の断行を公言する政党としては言行不一致であり、あまりにも矛盾しており、「身を切る政党」とは評しえません。それでも「身を切る政党」だと言い張られても、理性ある者であれば誰も信用しないでしょう。
(つづく)