政治資金オンブズマン

政治資金規正法の緊急改正提言

政治資金規正法の緊急改正提言

2004年10月7日
大阪市北区西天満4-6-3 第5大阪弁護士ビル3階
TEL 06-6314-4192 FAX06-6314-4187
政治資金オンブズマン (共同代表 上脇博之)

第1 政治資金規正法(以下、単に法という)の緊急改正骨子

1 法12条違反(法25条1項違反)の政治団体の代表者の責任を厳罰に処すること

 ① 法12条の提出義務者に代表者も加えること

 ② 又は会計責任者が罰せられた場合はその代表者の公民権が5年間停止されること

2 法12条違反(法25条1項)に違反する寄付金を国庫に帰属させること

3 迂回献金を禁止すること

4 政治団体間の寄付の量的規制をすること

5 法12条1項3号ホの預金等の明確化、ならびに預金等の残高証明書の添付及び監査のあり方

6 政党本部、1億円以上の寄附のある政治団体、法5条1項のみなし政治団体ならびに国会議員が代表者である政治団体、政党支部の収支報告書を電子化した収支報告書に報告させ、それをインターネットで開示すること

7 収支報告書等の保存、閲覧期間を7年にすること。

8 政治資金規正法違反の刑罰の抜本的見直し

第2 改正の理由

1 政治資金規正法はザル法といわれています。政治家とカネを規制する法律を作るのがその政治家達ですから自己に不利な法律を作らない、いわば泥棒に泥棒の取締法案を作らせているようなものと批判されるようでは政治家の信頼は地に落ちたも同然です。今回の日歯連事件でより一層この法律のザル法としての欠陥が明白となりました。私達は根本的に企業・団体の政治献金を全面的に禁止すべきであるとの立場であり、その他多くの改正案を持っていますが、今回は、今日の日歯連事件の中から見えた病巣の範囲内に限定して政治資金規正法の緊急改正案を提言します。この部分だけでも緊急に改正しないと政治家とカネに対する国民の信頼を回復することはできないからです。政党、政治家各位に置かれましても早急に討議を深め、改正の名に値するような法律改正をされるよう強く要請いたします。

2 緊急改正案骨子の説明

(1)法12条違反の政治団体の代表者の責任を厳罰に処すること。

① 会計責任者が処罰されてもその政治団体の代表が処罰されないという今回の事件のような不合理さを緊急に改正することが必要です。

今回の平成研究会の件のように橋本龍太郎代表は1億円の献金を受けながら、その後会計責任者に小切手を渡してしまえば、その後、会計責任者がその金をどのように処理しようと一切の責任が無いというのは、市民の常識からみて到底理解することができません。会計責任者に一切の責任を負わせ、会計責任者が泥をかぶってしまえば代表者の責任を問えないというのでは、政治不信を一層助長させます。同法25条2項に「会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠った時」は罰せられる旨の条文がありますが、検察庁はこの条文の適用に極めて消極的であるからです。私たちは現行規定でも代表者の会計責任者の選任・監督責任を十分問えると解していますが、法の執行者である検察の運用がこのように消極的である以上、代表者の責任についての改正を求めざるをえません。

よって、次のとおり改正するべきです。

② 法12条の収支報告書の提出義務者を政治団体の代表者と会計責任者が連名・共同で行うと改正すれば足ります。具体的には法12条1項の「政治団体の会計責任者は…」とあるのを、法17条1項のように「政治団体の代表者ならびに会計責任者は…」と修正すれば足ります。

③ 法12条の収支報告書の提出義務を現行法のとおり「会計責任者」に限定し続けるのなら、会計責任者が12条(法25条1項)に違反して刑罰に処せられた場合は政治団体の代表者の責任が重大ですから同人の公民権を5年間停止する等の措置が求められます。法25条2項の代表者の責任を刑罰権で処することがそれ程困難であるならば、それに代わる措置が取られないと国民はおよそ納得ができないからであります。具体的には法28条に「会計責任者が23条から26条の5まで、および第2項の罪を犯し罰金以上の刑に処せられたときにはその裁判が確定した日から5年間その政治団体の代表者の公職選挙法に規定する選挙権、及び被選挙権を有しない」という条項を新設すべきでしょう。

(2)法12条違反の寄付を国庫に帰属させること。

① 法12条に違反する闇献金について、それが発覚すれば現状では収支報告書を訂正すれば実際は許され、今回のように刑事事件になることはほとんどありません。ばれなければヤミ献金のままで永久に処理されてしまっているのです。これも政治家の金の処理に関して政治不信の大きな要因になっています。そこで法12条に違反する献金については実質匿名献金と同じなので、法22条の6と同様の規定にして、かつそのような献金は国庫に帰属するものとすべきであります。

② 具体的条文としては22条の6を次のとおりに修正すれば足ります。
1項 「何人も本人の名義以外の名義又は匿名、又は法12条の収支報告書に記載しないことを前提にして政治活動に関する寄付をしてはならない」。
3項 「何人も第1項の規定に違反してなされる寄付を受けてはならない」。
4項 「国庫に帰属する」という条文はそのままの形に生かされます。

なお、以上の文言だけでは最初に受け取る時の意思が問題となりますので、受け取る段階では法12条に 届出することが前提であったが法12条の提出するまでの間に意思が変わり、結局法12条に違反した場合は 対処できないので、法22条の6の4項に「法12条に違反して届出をしなかった場合も又同様とする」という 文言を入れる必要性があります。

(3)迂回献金を禁止すること。

① いわゆる迂回献金について検察は立件を見送りました。法12条は収入、支出を記入させ、それによって政治家の政治献金の透明性を確保させることにあります(法1条)。

しかるに迂回献金は政治団体及び公職の候補者の収支が違う形で表示され真実の寄付者との関係を隠蔽されるものであり、政治資金規正法の趣旨に反することは明白です。迂回することにより、本当の献金者を隠蔽するわけですから法22条の6の匿名献金と同様の犯罪であります。

② 具体的には、迂回献金禁止条文を新設することです

1項 「何人も金銭を交付する政治団体以外の者に寄付すること指示して、当該政治団体に寄付してはならない。ただし政治資金団体(法5条1項2号団体)に交付する場合は政党(但し政党支部を除く)を指示して寄付する場合はこの限りでない。」

2項 「何人も第1項に違反する献金であることを知りながらこれを受けてはならない。」

3項 「第1項、第2項に違反して寄付した者又は受けた者(当該団体の役職員、構成員も含む)は5年以下の懲役又は1億円以下の罰金に処する。

4項 「第1項、第2項の規定に係わる金銭又は物品の提供があったときは、当該金銭又は物品の所有権は、国庫に帰属するものとし、その保管者は、政令で定めるところにより、速やかにこれを国庫に納付する手続をとらなければならない。」

5項 「前項で規定する国庫への納付に関する事項は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととする。」

(4)政治団体間の寄付の量的制限をすること。

① 企業、団体献金の場合、ある一定額以上の献金については量的制限を設けています(法21条の3)。この規正の趣旨は、寄附の量的制限は巨額の政治資金の授受が政治の腐敗・癒着に結びつきやすいことから、寄附者の立場に着目して寄附をそれぞれ相応な額に制限することとしたものです。ところが、政治団体というフィルターを通すと巨額の献金が可能であることが今回の事件で明るみになりました。そこで、政治団体相互間の寄付も同様の理由で制限すべきであると考えます。

② 政治団体は資本金という概念がないし又その構成員のというのも不正確であるので、政治団体の寄附の制限は法21条の3の1項4号の「年間の経費の額の区分に応じた」制限を適用すべきです。そのためには、この条文のうち「政治団体を除く」という文言を削除すれば、政党、政治資金団体に対する寄附の総額は1項4号のとおり制限されます。

③ しかし、政党、政治資金団体以外の政治団体(今回のような平成研究会等)に対する寄付の制限も必要となるので、特別に、「政治団体のその他の政治団体に対する寄附の総額は21条の3の1項4号と同様とする」旨の条文を新設する必要性があります。また、このような規制条文を作っても、本部と支部をあわせて合算して献金することを認めると結局のところこの量的規制は脱法できるので、「政治団体(支部も含む)の政党、政治資金団体、その他の政治団体に対する寄附の総額は法21条の3の1項4号ならびに2項の年間の経費の額の区分に応じて制限する」とすべきです。なお、政治資金団体の政党(但し支部を除く)に対する寄付は除外することが必要でしょう。

④ 「量的制限等に違反する寄附の受領の禁止」を定めた第22条の2に、上記③で新設された条項を加える必要があります。

⑤ 寄付の総額制限(法第21条の3)及び上記③の政治団体間の寄付の量的制限に違反してなされた寄付については、上記(3)の迂回献金の場合と同じように「国庫に帰属」されるべきでしょう。

(5)法12条の財産目録の明確化と残高証明書の添付及び監査のあり方

① 平成研究会の繰越残高がほとんど存在しないといわれています。これが事実とするなら、支出を隠蔽した結果、繰越残高が異常に増加した結果であります。

② 法12条1項3号の 同ホの「預金もしくは貯金、又は郵便貯金、預金もしくは貯金又はその残高」については法9条1項3号記載と同一の内容、及びその金融機関等の残高証明書を添付することと訂正すれば足ります。

③ 政治団体の年度末現在の財産目録を資産と負債に区分してそれぞれの明細書を明らかにする必要があります。

④ 収入が相当額(例えば1億円を越える団体)を超える政治団体は監査人に利害関係のない公認会計士(又は監査法人)、弁護士、税理士を選任して監査を受けなければならない。

(6)政党本部、1億円以上の寄附のある政治団体、法5条1項のみなし団体、国会議員が代表者である政治団体、ならびに政党支部の法12条の収支報告書を電子化した収支報告書に報告させ、且つそれをインターネットで開示すること。

政治団体は現在のところ届出先が中央と地方に分けられ、政治家が自由に選択できる規定になっています。その為に国民が収支報告書の閲覧は極めて煩雑であり費用もかかります。上記の政治団体に限って全て電子化して法12条の収支報告書を提出させるべきです。そして、その結果を総務省において、インターネットで検索できるようにすることが必要です。

ちなみに、上場企業などの有価証券報告書は現在EDIネットと称して誰でも自由にインターネットを通じて自由に閲覧、謄写が可能です。政治資金報告書も同じようなシステムに早急に移行し透明性の充実に資する必要です。

本来このような対象団体は全ての政治団体が望ましいのですが、当面は、上記記載の団体に限って、早期に実施させることが現実的です。

(7)収支報告書等の保存ならびに閲覧期間を7年にすること。

法20条の2によると、収支報告書等の保存、閲覧期間は「3年」ですが、これはあまりにも記事か過ぎます。政治とカネの不祥事は、すぐに発覚するわけではなく、数年後に発覚するのがしばしばです。しかし、事件発覚後には収支報告書等の保存、閲覧期間が経過しており、政治資金の実態を知りたいと思っても、それがかなわないようでは困ります。そこで、その保存、閲覧期間は、少なくとも政治倫理法第5条における資産等報告書等の保存期間と同じ「7年」に延長すべきでしょう。

(8)政治資金規正法違反の刑罰の抜本的見直し

政治資金規正法違反の刑罰は、最高で5年以下の禁固または100万円以下の罰金です。21条の3等の量的規制違反については「1年以下の禁固または50万円以下の罰金」です。政治資金規正法は民主主義の根本である政治家のカネの透明性を裏切る行為ですから、禁固刑でなく懲役刑にすべきです。さらに、罰金も100万円というのは時代錯誤の金額です。最高は1億円とすべきです。

3 結論

以上の緊急改正案はこのたびの事件に対応した最低限のものです。改正案を早期に実現し、政治家とカネの透明性を維持し、政治不信を一刻も早くなくすることが求められています。

以上

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