与党の政治資金規正法改正案要綱を批判する!
与党の政治資金規正法改正案要綱を批判する!
2004年10月27日
政治資金オンブズマン
はじめに
自民党と公明党の与党は、実務者協議で政治資金規正法の改正案の要綱をまとめた。その内容の特徴は、新聞報道によると、以下の通りです。
① 政党と政治資金団体を除く政治団体間の献金の上限額を年間5000万円とし、違反した場合は「1年以下の禁固または50万円以下の罰金」を科す。
② 政治資金団体が金融機関を通さず、献金の授受をした場合、国が没収する。
③ 政治資金団体への献金については銀行振り込みか、郵便振替に限定するが、派閥や政治家個人の政治団体は対象外とする。
④ 施行期日を来年1月1日とし、開会中の今臨時国会に改正法案を議員立法で提出する。
そして、迂回献金禁止規定は見送られました。
私たち政治資金オンブズマンは、すでに「政治資金規正法の緊急改正提言」(2004年10月7日)を発表しています。これと比較していただければ、与党の改正案要綱が如何にお粗末なものであるか、おわかりいただけると思います。ですから、私たちは、お粗末な内容でしか与党が改正案をまとめられないことに、政治とカネについて与党は自浄能力が欠如していることを示しています。
ここでは、とりあえず迂回献金の問題と政治団体間の献金の上限額の問題に限定して、与党の改正案要綱を批判しておきます。
1.迂回献金禁止規定の見送りは政治資金規正法の本質の軽視だ!
与党の改正案要綱では、迂回献金を禁止する規定が盛り込まれず、先送りされました。しかし、迂回献金の問題は、今の「政治とカネ」において最も重大な問題の一つです。にもかかわらず、それを早急に禁止しないということは、与党が最大の問題に対処してはいないことを意味しており、主権者国民から見れば、対処する意思と自浄能力さえないのではないかとの疑念をいだかせるものです。
本来、政治資金規正法は、政治資金の流れの実態を正直に収支報告させるものです。にもかかわらず、迂回献金は、真の献金者と真の献金受取者とが誰なのかという実態を明らかにせず、隠蔽するものです。本質的には、すでに禁止されている匿名寄付と同じ性質を有しており、明らかに政治資金規正法の趣旨に反するものです。それゆえ、迂回献金という脱法行為を一切禁止しないということは、政治資金規正法の本質を否定していると批判されてもいた仕方ありません。
迂回献金の禁止については、立法技術上困難であること、あるいはまた実効性が確保できないことが先送りの理由のようです。しかし、立法技術の問題については、私たちの緊急提言を参考にしていただきたい。また、実効性の問題について言えば、そもそも政治資金規正法の歴史が企業・団体献金を禁止していないため脱法行為と法律改正のイタチごっこなのですから、迂回献金禁止の条項を盛り込み、その一歩を踏み出すべきです。
2.「年間5000万円」という量的規制の誤魔化し!
与党の改正案要綱では、政治団体間の献金の上限額を「年間5000万円」としています。従来、政治団体間の献金が何ら制約されず「青天井」だったことを考えると、一歩前進であるかのように思われるかもしれませんが、何らの制約もないに等しいものです。
(1)上限が高額すぎる!
第一、「年間5000万円」という上限はあまりにも高額すぎて、これでは実際に規制を受ける献金は皆無に近いといっても過言ではないでしょう。
私たちは、「年間の経費の額の区分に応じた」制限を設けるべきであると提言しています(参照、政治資金規正法21条の3の1項4号)が、上限を「年間5000万円」にするのであれば、政治団体の「前年における年間の経費の額」が「1億4千万円以上」はすべて「5,000万円」にすべきでしょう。そうする、以下のようになります。
前年における年間の経費の額 | 政党・政治資金団体に対する寄附 |
---|---|
2千万円未満 | 750万円 |
2千万円以上 ~ 6千万円未満 | 1,500万円 |
6千万円以上 ~ 8千万円未満 | 3,000万円 |
8千万円以上 ~ 1億円未満 | 3,500万円 |
1億円以上 ~ 1億2千万円未満 | 4,000万円 |
1億2千万円以上 ~ 1億4千万円未満 | 4,500万円 |
1億4千万円以上 | 5,000万円 |
(2)量的規制の対象が限定されすぎている!
第二に、与党の改正案要綱における「年間5000万円」の上限の規制を受ける政治団体が限定されすぎているということです。なぜなら、政党への献金や政党の政治資金管理団体への献金にはこの上限がかされず、「青天井」のままだからです。ですから、与党は、政治団体が政党あるいは政党の政治資金団体に対して5000万円以上の献金をこれまでどおり放任しているのです。
(3)脱法行為が可能である!
第三に、与党の改正案要綱では脱法行為が可能です。例えば、政治家や派閥が政治団体を複数つくってしまえば、業界などの政治団体は「年間5000万円」の上限を超えて事実上政治家や派閥(の政治団体)に献金することができるからです。 私たちは、「政治団体(支部も含む)の政党、政治資金団体、その他の政治団体に対する寄附の総額」で前述(1)の上限を設けるべきであると提言しています。
おわりに
以上のように、与党の改正案要綱は、迂回献金を一切禁止せず、また、「政治団体間の献金の上限額年間5000万円」という量的規制も、規制の適用範囲が限定されすぎているうえに実質的には脱法行為が可能です。
私たちは、上記以外にも、「政治団体の代表者の責任を厳罰に処すること」、「預金等の残高証明書の添付及び監査のあり方」、「収支報告書をインターネットで開示すること」、「収支報告書等の保存、閲覧期間を7年にすること」、「政治資金規正法違反の刑罰の抜本的見直し」などの提言を行っています。
そもそも企業・団体献金は、1994年の「政治改革」で政党助成を導入したため、5年後に全面禁止されるはずでした。政治資金規正法改正もそれを「見直し」という文言で表現していました(附則第10条)。しかし、これは反故にされ、違法状態が継続しています。
本来は、ここまで与党は検討を進めるべきですが、私たちは緊急を要する課題に限定して提言しました。
ですから、与党が政治資金規正法の改正につき要綱の内容でお茶を濁そうというのであれば、それは改正の名には値しないと厳しく批判せざるをえません。
再考を求めるものです。
以上