審査申立書 【 資料⑤ 】
資 料 ⑤
審 査 申 立 書
東京検察審査会 御中
2001(平成13)年12月21日
告発人代理人(代表)
弁護士 阪 口 徳 雄
第1.申立の趣旨
被疑者森喜朗につき、政治資金規正法違反で「起訴相当」の議決を求める。
第2.申立の理由
1.審査申立人 (告発人) 高槻市○○○○
森 岡 孝 二
(告発人) 北九州市○○○○
上 脇 博 之
(告発人) 大阪市○○○○
野 町 直 彦
2.罪 名 政治資金規正法違反
3.被疑者 被疑者 東京都世田谷区○○○○
森 喜 朗
4.不起訴処分年月日 平成13年11月21日
5.不起訴処分をした検察官 東京地方検察庁
検事 齋 藤 隆 博
6.被疑事実の要旨
(1)被疑事実
自由民主党は、政治資金規正法(以下単に法という)3条2項に定める政党であり、被告発人は、1998年7月から2000年4月までの間、同党の会計責任者(幹事長)であった者であるが、
① 同人は同党の1998年1月から同年12月までの収支を法12条に定める報告書に記載して1999年3月29日自治大臣に提出するに際して、その支出のうち、組織活動費名目の金員の支出については、その支出を受けた者の氏名(住所、支出の目的、金額、年月日)を記載すべき旨定められているのに、組織活動費名目で支出を受けた者の真実の氏名を記載せず、単に組織活動費名目で預かった被告発人の氏名のみを別表1のごとく記載し、
② 同人は同党の1999年1月から12月までの収支を法12条に定める報告書に記載し2000年3月29日に自治大臣に提出するに際して、その支出のうち、組織活動費名目の金員の支出については、その支出を受けた者の氏名(住所、支出の目的、金額、年月日)を記載すべき旨定められているのに、組織活動費名目で支出を受けた者の真実の氏名を記載せず、単に組織活動費名目で預かった被告発人の氏名のみを別表2のごとく記載し、
もって法25条1項2号又は3号にいずれも違反したものである。
(2)罪名及び罰条
政治資金規正法25条1項2号、又は3号違反
7.起訴事実を裏付けする事実
(1)(自民党の収支報告書の提出)
① イ.1998年1月から12月までの間の自民党の法12条に定める収支報告書は、1999年3月29日自治大臣に届けられている(甲1号証の1)。
ロ.1999年1月から12月までの間の自民党の法12条に定める収支報告書は、2000年3月29日自治大臣に届けられている(甲1号証の2)。
② 右支出のうち、
イ.1998年分の同党の組織活動費
70億1387万8608円のうち
58億5070万円
は各国会議員に対し支出した旨記載されている(甲2号証の1)。
このうち大口受取人は
加藤紘一 に45回 合計9億3710万円
森 喜朗 に23回 合計4億1210万円
橋本龍太郎に11回 合計1億3200万円
となっている。
1回の大口支払いをみても
1998年6月1日 奥田幹生 金1億円
右同日 関谷勝嗣 金1億円
右同日 宮下創平 金1億円
右同日 西田司 金1億2000万円
となっている。
ロ.1999年分の同党の組織活動費
62億5641万8139円のうち
48億470万円
は各国会議員に対し同記載の年月日に支出した旨自治大臣に報告書が提出されている(甲2号証の2)。
③ 同じ組織活動費名目の支出のうち、その余の残金については、その支出先は詳細に何円単位まで記載されている。
(2)(被告発人の自らの配布と自らの受領行為)
被告発人は当時自民党の幹事長であり、且つ、別紙のとおり自民党本部から1998年分は合計23回4億1210万円、1999年分は合計50回7億1420万円を受領した旨記載されているが、この金は被告発人個人がその金を自民党本部から「預かり」、且つ、自民党の組織のために支出したとすれば、収支報告書の支出はその金員を交付した次の相手方を記載すべきであるのに、それを記載していない。
8.不起訴処分の理由
(1)嫌疑なしという理由で不起訴処分になった。その理由を担当検事に質問するとほぼ次のとおりであった。なお、申立人が嫌疑なしの理由を文書で求めたが拒絶された。
(2)政治資金規正法12条により「支出」先を記載すべき旨定められている立法経過や公権的解釈により、法律上この程度で足り、被告発人が受け取った金を誰に「支出」したかを記載しなくとも、記載すべき事項を記載せず又は虚偽でもないということであった。
なお、自治省選挙部政治資金課編集逐条解説「政治資金規正法」においては、政治団体の収支については全てこれを公表し、国民の批判に委ねようとする本法の趣旨からいって支出の相手先は「単に政治団体の手足としての事務職員に交付したことをもって支出したことには出来ない」としているが「当該支出を受けた金銭等を自らの責任と判断で処理しうる立場の者」であれば足りるという考え方であろうと思われる(57~58頁)。
9.不起訴処分を不当とする理由
(1)(質問状の送付と自民党の回答)
① 告発人らは、前記一の自民党の組織活動費名目の支出について、自民党本部に2000年9月6日付で別紙の質問状を送付した(甲3号証)。しかし、同党から何の回答もなかったので、これを受け取ったと記載のある現職の国会議員294名に対し、別紙の質問状を送付した(甲4号証)。
② これに対し、平成12年11月28日文書で自民党から次のとおりの回答があった(甲5号証)。
「組織活動費は党役員、党所属議員に目的を定めて支給されており、政策立案及び政策普及のため情報収集、調査分析、党組織拡大のためのPR活動等の政治活動に使われています。党役員、党所属議員としての政治活動経費に全て使われていますので、個人の利益となる所得ではなく税務上の処理はありません」という回答であった。
③ 自民党の右回答によれば、組織活動費名目の国会議員への「支出」は、「目的を定めて支給」している以上、それは自民党の諸活動のために各国会議員に支給しており、国会議員1人1人の収入ではないこととなる。即ち、右各支出は「自民党の情報収集、調査分析、党組織拡大のためのPR活動等」の為の支出であるから、各国会議員1人1人にとっての「収」でもないし「出」でもない旨の回答があった。
更に、個人の所得でもないので税務上の処理は必要がないとのことであった。
(2)(支出)
① 法に定める支出とは、「金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付」と定義されている(法4条5項)。
政治資金規正法の、政党等の収支報告書にその支出を国民に開示させる趣旨は、政党、国会議員等の「政治活動の公明さ」を確保するために、支出面から政党の金が誰に供与または交付されているかを明らかにさせることを目的としている。
② 以上の法の趣旨から考察すると、支出先の氏名というのは、当該支出が自民党という組織以外の者に「供与又は交付」したか否かを明確にすることを求めている。ある政党がある政党幹部の役職の者に金を支出したと記載すれば、その役職者個人にその金銭の所有権を移転したと一般的に解される。しかし、自民党の前記回答によると、各国会議員への「支出」は議員個人に配布した金ではなく、組織の機関又は組織の手足として、その金を自民党の組織の諸活動のために使ったという回答である。いわゆる自民党の国会議員へ目的を定めて支出した「預け金」であるというのである。
即ち、自民党と支出先の国会議員との間では、交付された金の所有権は今なお自民党本部に帰属すると解される。そう解すれば、これを受け取った議員は、自己の政治資金管理団体や自己の税金の所得の申告書の「収入」欄に記載する必要性がない。
③ 他方、この組織活動費なる名目での支出が各国会議員にその所有権が移転していると解すると次のごとき矛盾が生じる。
第1に、受け取った国会議員は政治資金規制法21条の2、第1項により「何人も公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く。)に関して寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く。)をしてはならない。」
と定められているから、被告発人はもちろん派閥の事務総長クラスは一切、国会議員らに寄附することができない。
これに違反すると法26条1号により、1年以下の禁錮または50万円以下の罰金になる。
(同条の公職の候補者には、公職選挙法第3条に規定する衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の職にある者、その候補者及びその候補者になろうとする者をいうものである。)
選挙活動や政治活動以外の寄附だと単純に贈与となり、贈与税が課せられる。
しかし、実態は前記大口の金を受け取った国会議員は派閥の責任者としてこの金を派閥の議員に配布しているのであるから、これを合法化するとすれば政党からの預り金と解さなければならない。
第2に、もしこの自民党からの交付された金の所有権が国会議員個人に所有権が移転しているとすれば、この金の会計上の処理は、
イ.自己の資金管理団体に寄附する(特定寄附となり、本来、政治資金規正法が求めている姿である)
ロ.もし自己の資金管理団体に寄附しなければ、個人の雑収入として計上し、そして雑収入に対応する必要経費として個人の申告書に記載すべきことが求められる。
しかし、本件組織活動費を受け取った国会議員の99パーセント以上の者が、自己の資金管理団体に自民党本部から入金があったと記載していない。また、告発人らの調査によると、個人の申告書にも一切記載していないし、その必要もないとのことである。
もし、個々の国会議員にその所有権が移転しているのに、国会議員だけが申告に際して自民党からの「収入」と記載する必要性がないということになると、国会議員が自民党から受領した組織活動費を何に使ったか、誰からもチェックを受けないということが許されることになる。そのような特別な法律は存在しないし、そのような「特権」は国会議員にはないはずである。
④ 以上のとおり、組織活動費名目の「支出」が実際には「預け金」であると解さない限り、自民党ならびにそれを受け取った国会議員の会計上の処理を「合法化」することは出来ない。しかし、そうとすれば、それは政治資金規正法12条が求めている真実の支出先を記載していないことになる。何故なら、法12条に要求されている「支出」は、自民党本部の組織体以外の者にその交付した金額の所有権が移転していた先を記載すべきことが要求されているからである。
法ならびに国民は自民党内部の役職者の間で本部がどの役職者に金をいくら預けたかを知りたいのではなく、その役職者が最終的に誰にその金を支出したかを知りたいのである。
10.(結論)
よって、検察審査会において国民からの信頼を回復する為に、本件不起訴処分について起訴相当の議決をされるよう望む次第である。
11.(添付書類)
(1) 不起訴通知書 1通
(2) 委任状 3通