甘利明前経済産業大臣(神奈川13区)を次期衆議院選挙における落選対象議員第1号として告発しました
告発理由
甘利明元大臣を衆議院議員の落選対象第1号議員として告発しまし
告発理由は安保法制の推進に大臣として関与し、
告発人らは本件については週刊文春の報道後、
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告 発 状
2016年4月8日東京地方検察庁 御 中
上脇博之別紙記載の告発人24名
代理人弁護士 阪 口 徳 雄
(別紙代理人目録記載の弁護士49名代表)
甘利明衆議院議員、元公設秘書・政策秘書
あっせん利得処罰法違反・政治資金規正法違反等告発事件
被告発人 甘 利 明
被告発人 清 島 健 一
被告発人 鈴 木 陵 允
告 発 の 趣 旨
被告発人らの下記被疑事実記載の各行為はいずれもあっせん利得処罰法違反および政治資金規正法違反の罪名及び罰条記載の法条に各違反するので早急に捜査を遂げ厳重に処罰されたく告発する。
記
第1 被疑事実1.被疑事実1
(あっせん利得処罰法違反・2013年分)
被告発人甘利明は衆議院議員として「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律」(以下「あっせん利得処罰法」という)第1条第1項にいう「公職にある者」であり、被告発人清島健一は同法第2条第1項に規定する被告発人甘利明の「議員秘書」であり、国土交通省が所管する独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という)は同省が資本金のほぼ全ての資本金を出資する独立行政法人として同法第1条第2項および第2条第2項にいう「国が資本金の2分の1以上を出資している法人」に該当するものであるところ、
被告発人甘利明および被告発人清島健一の両名は共謀して、
2013年5月9日、URが千葉県白井市内に道路を敷設する工事予定地に隣接する株式会社薩摩興業占有地を工事用重機や資材置き場として使用することや、工事の振動で建物に生じた被害の賠償要求などに関連する補償金額に関するURと同社間の補償金額交渉ならびにその結果としての補償契約(ないしは和解契約)に関して、同社総務課長一色武から補償契約(ないしは和解契約)のためにURに働きかけてもらいたい旨の請託を受けて、
同年6月7日、被告発人清島がUR本社を訪れUR職員3名に対し、上記補償契約(ないしは和解契約)に関してその職務上の行為を行うよう働きかけ、その報酬として、次のとおり合計550万円を受け取り、
(1)2013年8月20日 現金500万円を神奈川県大和市の甘利事務所において、被告発人清島健一が受領
(2)2013年11月14日 現金50万円を大臣室において、被告発人甘利明が受領もって公職にある者の権限に基づく影響力を行使して国が資本金の2分の1以上を出資している法人の職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したものである。
2.被疑事実2(あっせん利得処罰法違反・2014及び2015年分)
被告発人甘利明は衆議院議員として「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律」(以下「あっせん利得処罰法」という)第1条第1項にいう「公職にある者」であり、被告発人清島健一及び被告発人鈴木陵允は同法第2条第1項に規定する被告発人甘利明の「議員秘書」であり、国土交通省が所管する独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という)は同省が資本金のほぼ全ての資本金を出する独立行政法人として同法第1条第2項および第2条第2項にいう「国が資本金の2分の1以上を出資している法人」に該当するものであるところ、
被告発人甘利明、被告発人清島健一及び被告発人鈴木陵允の3名は共謀して、 2014年2月1日から2015年11月までの間、URが千葉県白井市内に道路を敷設する工事予定地に隣接する株式会社薩摩興業が賃借している敷地に埋設された産業廃棄物の撤去費用の補償金などに関連する補償金額に関するURと同社間の補償金額交渉ならびにその結果としての補償契約(ないしは和解契約)に関して、同社総務課長一色武から補償契約(ないしは和解契約)のためにURに働きかけてもらいたい旨の請託を受けて、
2015年7月6日から2016年1月6日までの間、次のとおりUR職員に対し職務上の行為を行うよう働きかけ、
(1)2015年7月6日昼 地元事務所 秘書2人、UR1人
(2)10月5日昼 地元事務所 秘書2人、UR1人
(3)10月9日昼 議員会館 秘書1人、UR3人
(4)10月26日夜 横浜市の居酒屋 秘書2人、UR3人
(5)10月27日昼 議員会館 秘書1人、UR3人
(6)10月28日夕 議員会館 秘書1人、UR3人
(7)11月5日夕 議員会館通路 秘書1人、UR1人
(8)12月1日午後 地元事務所 秘書1人、UR2人
(9)12月16日午前 地元事務所 秘書1人、UR2人
(10)12月22日午前 地元事務所 秘書1人、UR2人
(11)2016年1月6日午前 地元事務所 秘書1人、UR2人
その報酬として、少なくとも次のとおり合計935万円を受け取り、
(1)2014年2月1日 現金50万円を神奈川県大和市の甘利事務所において、被告発人甘利明が受領
(2)2014年11月20日、薩摩興業の名義と一色武の名義で50万円ずつの寄付を被告発人清島健一が受領
(3)2015年も、現金15万円を53回、計795万円を被告発人清島健一らが受領。
(4)2015年6月と11月に開かれた甘利氏の政治資金パーティーの券も20万円ずつ計40万円分購入してもらった。
もって公職にある者の権限に基づく影響力を行使して国が資本金の2分の1以上を出資している法人の職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したものである。
3.被疑事実3(政治資金規正法違反)
2013年1月1日から2014年12月末まで、被告発人甘利明は「自由民主党神奈川県第13選挙区支部」(以下「第13選挙区支部」という)の代表であり、被告発人清島健一は同支部の会計責任者であるところ、
両者は、共謀し、政治資金規正法第12条が定める政治資金収支報告書を提出する際に、
①2013年8月20日に薩摩興業㈱から被疑事実1における口利きのお礼として500万円の寄附を受領したと「第13選挙区支部」の2013年分政治資金収支報告書(以下、本件2013年分「第13選挙区支部」収支報告書という)の収入欄に記載する義務があったのに、そのうちの100万円しか寄附の受領をしていないと虚偽記入して(収支報告書68頁)、同政治資金収支報告書を2014年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第3号に違反したものである。
② 「第13選挙区支部」は2013年9月6日に自由民主党神奈川県大和市第2支部に100万円を寄附したと本件2013年分「第13選挙区支部」収支報告書の支出欄に記載する義務があったのに、当該100万円は薩摩興業㈱が同日自由民主党神奈川県大和市第2支部に寄附したように偽装して、当該100万円の寄附を同収支報告書の支出欄に記載しないまま、同収支報告書を2014年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第2号に違反したものである。
③ 「第13選挙区支部」は2014年12月14日執行の衆議院議員総選挙前の同年11月20日に、被疑事実2における口利きのために薩摩興業㈱の総務担当者である一色武から50万円の寄附を受領したと同支部の2013年分政治資金収支報告書(以下、本件2014年分「第13選挙区支部」収支報告書という)の支出欄に記載する義務があったのに、それを収入欄に一切記載しないまま、同収支報告書を2015年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第2号に違反したものである。
4.被疑事実3(政治資金規正法違反)についての予備的告発
①被疑事実3②における100万円が薩摩興業㈱から自由民主党神奈川県大和市第2支部への寄附だったとして処理したことが合法であったとしても、被疑事実3①における受領寄付は400万円になるところ、
被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀し、400万円の寄附を受領したと本件2013年分「第13選挙区支部」収支報告書の収入欄に記載する義務があったのに、そのうちの100万円しか寄附の受領をしていないと虚偽記入して同政治資金収支報告書を2014年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第3号に違反したものである。
②被疑事実3③における50万円の寄附が被告発人甘利明の選挙運動のための資金で、かつその受領者が自由民主党神奈川県大和市第2支部ではなく被告発人甘利明であったとしても、
被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀し、公職選挙法第189条第1項に定める「選挙運動に関する収支報告書」(同年11月19~12月26日までの第1回分)の収入覧に、50万円の寄附を受領したと旨記載する義務があったのに、それを一切記載しないまま、かつ出納責任者にその旨知らせず、同年12月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し、
もって、同法第246条第5の2号に違反したことになる(間接正犯)。
③被告発人甘利明は、被疑事実1における「口利きのお礼」として薩摩興業㈱から2013年11月14日に50万円の贈与を受け、また、被疑事実2における口利きのために薩摩興業㈱から2014年2月1日に50万円の贈与を受けているが、この合計100万円につき、本件2014年分「第13選挙区支部」収支報告書の収入欄に記載している、2014年2月4日に薩摩興業㈱から受領した寄附100万円であった旨(収支報告書67頁)説明しているが、
被告発人甘利明個人への合計100万円の贈与を、寄付者の意思を無視して勝手に「第13選挙区支部」への寄附として処理することは、真実を記載しなければならない政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたことになるから、被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀し、同収支報告書を2015年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し、
もって政治資金規正法第25条第1項第3号に違反したことになる。
第2 罪名及び罰条1
被疑事実1及び被疑事実2の被告発人甘利明及び被告発人清島健一および被告発人鈴木陵允の行為は「特定法人職員に対する公職者あっせん利得罪」あっせん利得処罰法1条2項違反、刑法60条(共同正犯)
2 被疑事実3の被告発人甘利明および被告発人清島健一の各行為 政治資金規正法第25条第1項第2号・第3号、刑法60条(共同正犯)3 被疑事実3の予備的告発①及び③の被告発人甘利明および被告発人清島健一の各行為 政治資金規正法第25条第1項第3号、刑法60条(共同正犯)
②の被告発人甘利明および被告発人清島健一の各行為 公職選挙法第246条第5の2号、刑法60条(共同正犯)
告 発 の 理 由
1.被疑事実1及び2(あっせん利得処罰法)について
(1)あっせん利得処罰法の定め
あっせん利得処罰法は、その第1条第1項で「衆議院議員、参議院議員又は地方公共団体の議会の議員若しくは長」を「公職にある者」と定義し、同条第2項で「公職にある者が、国又は地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資している法人が締結する売買、貸借、請負その他の契約に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して当該法人の役員又は職員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したとき」には、「3年以下の懲役に処する」と定めている。
また、同法は、第2条第2項で「衆議院議員又は参議院議員の秘書が、国又は地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資している法人が締結する売買、貸借、請負その他の契約に関し、請託を受けて、当該衆議院議員又は当該参議院議員の権限に基づく影響力を行使して当該法人の役員又は職員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したときも」「2年以下の懲役に処する」と定めているが、ここでいう「秘書」とは、国会法第132条第1項でいう「各議員」の「職務の遂行を補佐する秘書」、同条第2項でいう「主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書」のほか、「衆議院議員又は参議院議員に使用される者で当該衆議院議員又は当該参議院議員の政治活動を補佐するもの」をいう(あっせん利得処罰法第2条第1項)。同法の保護法益は、「公職にある者(衆議院議員等の政治家)の政治活動の廉潔性ならびに、その廉潔性に対する国民の信頼」とされている。政治の廉潔性に対する国民の信頼と言い換えてもよい。
それゆえ、あっせん利得処罰法における公職にある者およびその秘書の罪は、あっせん内容が公務員に「適正な職務行為をさせ、又は不当なことをさせないもの」であっても処罰の対象になりうるものであり、あっせん内容が公務員に「職務上不正な行為をさせ、又は相当の行為をさせないこと」が必要である刑法第197条の4のあっせん収賄罪とは異なる(勝丸充啓著・山本有二監修「わかりやすい あっせん利得処罰法 Q&A」(大成出版社、2001年)10頁)。
刑法は、「身分犯の共犯」につき、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする」と定めている(第65条第1項)。あっせん利得処罰法にいう「衆議院議員又は参議院議員」は構成的身分なので、上記「秘書」が「衆議院議員又は参議院議員」のあっせん利得の「犯罪行為に加功したとき」は、上記「秘書」も「3年以下の懲役」に処されることになる。
(2)事件の当事者について
被告発人甘利明は、衆議院議員であり、安倍晋三第一次政権では経済産業大臣であったし、本件事件発覚後に辞任するまで安倍晋三第二次政権では経済再生担当大臣、さらに成長戦略の柱であるTPP担当大臣であった。
被告発人清島健一は、国士舘大学を卒業し、2002年から江田憲司衆院議員(現・維新の党)の事務所で秘書になり、江田氏が2003年に落選すると、甘利事務所に移り、2011年には公設第一秘書となり、本事件発覚後に辞職するまで、甘利明の公設秘書であり続け、地元の大和事務所の所長も務めていた。
被告発人鈴木陵允は、別の自民党衆院議員の事務所にいて、もっぱら運転手を勤めていた。甘利事務所に移ってからは、甘利の夫人に気に入られ私的にも運転手を務め、本事件発覚後に辞職するまで、甘利明の政策秘書であった。
一色武は、千葉県白井市にある建設会社「薩摩興業」の総務課長であり、被告発人甘利明の支援者でもあり、被告発人甘利明大臣(当時)、清島健一公設秘書(当時)および被告発人鈴木陵允政策秘書(当時)に「口利き」を依頼した人物でもあるが、この3名が数年もの間、金をとるだけ取って最後は事をうやむやにしようとしている姿に不信感を抱くようになり、「真実を話すことで自分が不利益を被る」ことを承知のうえで本件事件を週刊誌「週刊文春」に実名告発した人物である。一色は、録音や渡したピン札のコピーなど、多数の“物証”を残しているが、このことについて週刊誌に、以下のように語っている。
「口利きを依頼し金を渡すことには、こちらにも大きなリスクがあるのです。依頼する相手は権力者ですから、いつ私のような者が、切り捨てられるかわからない。そうした警戒心から詳細なメモや記録を残してきたのです。そもそも、これだけの証拠がなければ、今回の私の告発を誰が信じてくれたでしょうか?
万一、自分の身に何かが起きたり、相手が私だけに罪をかぶせてきても、証拠を残していれば自分の身を守ることができる。そして、その考えは間違っていませんでした」
(3)甘利と一色との関係
一色武によると、被告発人甘利明との関係は、一色武の20歳代にまでさかのぼる。一色武は、20歳代の頃から主に不動産関係の仕事をしており、被告発人甘利明の父親で衆議院議員だった甘利正とも面識があり、当時、甘利正の自宅には何度も訪問し、厚木の依知(えち)という地区に大きな屋敷があり、甘利正は、親分気質の方で、その屋敷に不動産関係の仲間がたくさん来ていた。また、当時、本厚木駅の近くに甘利の名前をとった通称“アキラビル”というのがあり、このワンフロアに、不動産関係の仕事をしていた甘利正の弟や地元の建設関係の仲間たちが集まり、よく情報交換をしていた。
一色武が被告発人甘利明と初めて会ったのは、被告発人甘利明がまだソニーに勤めていた頃厚木の料亭で甘利正らとの会食に参加したときだった。
一色武は、甘利正の書生をやっていたI氏とも親しく付き合っており、そのI氏に連れられて、1996年から1997年ごろ、すでに議員だった被告発人甘利明に相談を持ちかけた。ある漁業権の売買に関する相談事があり、I氏が「明君に相談へいこう」と言い、大和事務所を訪れたところ、被告発人甘利明本人は応接室で対応した。
甘利家とは、昔からそんな縁があり、一色武は被告発人清島が被告発人甘利明の大和事務所に来るかなり前から、甘利事務所の秘書たちとは付き合っていた。また、月1回行われている勉強会「甘利明アカデミー」や政治資金パーティーの「甘利明君を囲む会」にも何度も参加していた。
一色武は、2014年4月には被告発人清島からの誘いで、安倍晋三総理主催の「桜を見る会」にも招待された。
(4)2013年の補償交渉における「口利き」(被疑事実1)
1970年、千葉県企業庁は「千葉ニュータウン」の開発に伴い「県道千葉ニュータウン北環状線(清戸地区)」の道路用地買収を始めたが、道路建設は、現在、千葉県企業庁から委託された独立行政法人都市再生機構(UR)が行っている。
その道路建設工事が始まると、もともと薩摩興業が地主から借りている道路建設予定地の一部を、地主がURへ売却してしまい、URとトラブルになってしまい、さらに、工事によって地中から硫化水素が発生したり、工事の振動で当社の建物がゆがんだりと、その後も次々と問題が起きたので、2013年頃、URと薩摩興業との間で補償の話が持ち上がったが、交渉は難航した。
そこで、薩摩興業の総務担当者である一色武は、同年5月9日、被告発人甘利明の大和事務所に、数カ月前に知人の紹介で出会っていた清島を訪ね、「清島所長の力で何とかしていただけませんか」と、相談したところ、清島は、真剣に話を聞き「私が間に入ってシャンシャンしましょう」と言い、URに内容証明の「通知書」を送ることを提案した。
同年6月7日夕、清島は、UR本社(横浜市)を訪問し、UR3人に対し、薩摩興業のために口利きをした。
同年6月14日、清島は、一色に、URの担当者の名刺のコピーを店、ベテラン秘書の宮下忠士をUR本社に向かわせたことなど、口利きの経過報告をした。同年6月21日、URから薩摩興業に、「通知書」に対する「回答書」が届き、「補償に関して、通知人から別途、提案がありますので、当該折衝は通知人担当者との間で行っていただくようお願いいたします」と回答があった。
その直後、URから「金額のことで話し合いをしましょう」と連絡があり、薩摩興業の社長室にURの担当者3名とUR関連会社の方1名が訪問し、URは約1億8000万円を支払うことを口頭で提案した。一色が「もう少しなんとかなりませんか」と言うと、「1割くらいは」といい、その場で、2000万円アップし、約2億円に金額が上がった。URの職員が帰った後、薩摩興業の社長が「ある県議から、この件でURは3億円払うと聞いている」というので、一色は、URの担当者に電話したところ、「検討します」と返事し、結果的に、薩摩興業への補償額は、さらに2000万円も増えた。
結局、清島が提案した内容証明をきっかけに補償交渉をすすめた薩摩興業は、3カ月後の2013年8月、URから補償金約2億2000万円を得たのである。そこで、一色は甘利事務所への信頼を深め、同年8月20日に現金1000万円を持参して大和事務所を訪れ、そこの応接室で、決着がついた「お礼」を清島に言い、1000万円を清島に差し出したところ、半分の500万円は「これは別の機会に」と清島から返された。清島は、スタッフ男女数人がいた広い部屋に行き、大きな声で「一色さんは約束を守る人だね」と、現金500万円を見せびらかした。清島は、応接室に戻ると、100万円と400万円の領収書を持ってきた。いずれも、発行元は自由民主党神奈川県第十三選挙区支部で、宛名は薩摩興業だった。
ところが、清島は後日、「先日の100万円の領収書」を、甘利の元秘書・藤代優也県議が代表を務める「自民党神奈川県大和市第二支部」が発行する「100万円の領収書」(2013年9月6日付)に替えてほしいと言われ、一色は「不思議に思ったものの、何か特別な事情があるのだろうと思い、所長の言うままに」領収書を受け取った。
なお、自民党神奈川県第十三選挙区支部の2013年分政治資金収支報告書には、8月20日付の薩摩興業名義で100万円の寄付を受領した、と記載されており、神奈川県大和市第二支部の2013年分政治資金収支報告書には9月6日付で100万円の寄付を受領したと記載されている。
この“お礼”の後、清島の計らいにより、11月14日、一色と薩摩興業社長は、議員会館を訪れた。甘利事務所のMさんという女性とともに国会内を見学することになっており、清島所長からは事前に、「Mさんにも3万円くらい商品券を用意してくださいね」と頼まれていたが、うっかり忘れてしまい、仕方なく、現金を封筒に入れ、議員会館の地下にある売店の側で、所長に「Mさんに渡してください」と預け、国会見学を終えると、13時過ぎから議員会館で昼食を取り、その後、清島に大臣室へ案内された。薩摩興業社長は、「桐の箱に入ったとらやの羊羹と一緒に紙袋の中に、封筒に入れた現金50万円」を添えて、「これはお礼です」と言って大臣の甘利に手渡したところ、紙袋を受け取ると、清島所長は甘利大臣に何か耳打ちすると、甘利は「あぁ」と言って50万円の入った封筒を取り出し、スーツの内ポケットにしまい、羊羹が入った紙袋を椅子の横に置いた。事前に面会は15分だけと清島から言われていたが、結局40分くらい大臣室で雑談をし、そして全員で記念写真を撮った。
(5)2014年以降の新たなトラブルについての「口利き」(被疑事実2)
ところが、薩摩興業とURとのトラブルはこれだけでは終わらなかった。URの工事により建設中の道路に隣接している薩摩興業の敷地のコンクリートに、いくつもの亀裂が入ったので、薩摩興業は業務に支障がでる恐れがあるためURに抗議した。もっとも、コンクリを補修するとなると、敷地全てのコンクリを剥がす必要があるが、コンクリの下に大量の産業廃棄物が埋まっており、薩摩興業は2014年に、行政機関から、“コンクリを剥がした場合は地中に埋没する全ての産廃を取り除くこと”と文書で指導されており、コンクリを打ち直すということは、薩摩興業が借りている敷地一帯に埋まっている産廃を全て撤去しなくてはならないため、それには百億円以上かかる。しかし、URは、薩摩興業には約1億3000万円の補償金しか支払わないという。
そこで、薩摩興業は、産廃撤去を巡る約30億円規模の補償交渉をめぐっても、甘利事務所に口利きを依頼した。
一色武は、被告発人甘利本人にも口利きを依頼するために、2014年2月1日の午前10時30分、大和事務所の応接室を訪問した。新たなURとのトラブルを説明するために数センチ程の厚みがある青いファイルに資料を挟み、事前に清島所長から指示されていた通り、要点をまとめたA4用紙2枚を持参し、清島に手渡した。10時半を過ぎたころ到着した甘利に、清島所長は「この資料を見てください」と言って、一色の持参したファイルを手渡したところ、甘利には、真剣に目を通し、「これはどういうこと?」と、いくつか質問をしたものの、すぐに要点を理解したようで、甘利は、「一色さん、ちゃんとやってるんだね。わかりました」と言い、清島所長に「これ(資料)、東京の河野君(現・大臣秘書官の河野一郎氏)に預けなさい」と指示した。
そして清島所長が「一色さん、例のものを」と小声で言うので、一色は現金50万円が入った封筒を甘利に差し出したところ、甘利は「ありがとう」と言って、封筒を受け取った後、「パーティー券にして」と清島に言った、一色が「いや、個人的なお金ですから(受け取ってください)」と言うと、大臣室の時と同様に、甘利は内ポケットに封筒をしまった。最後に、清島所長がシャッターを押し、一色と甘利の写真を撮影した。
しかし、URとの補償交渉は、甘利に事情を説明してから約5カ月半が経っても進展しなかった。7月半ば、一色の誕生日が近いからという理由で清島所長から会いたいと連絡があり、居酒屋で所長と会うと「大臣から預かっているものがある」と、甘利が一色に書いた色紙を持参した。一色の名前を入れて「得意淡然 失意泰然」と書かれており、これを読み、一色は「甘利大臣がきっと動いてくれると信じながら」じっと待つことにした。この日の会計も一色が支払った。この頃、一色は清島との関係を深め、毎週のように会うようになっていた。
さらに、甘利事務所の鈴木陵允(政策秘書)も補償交渉に加わった。一色は、清島の紹介で、2014年7月17日、鈴木と初めて酒を酌み交わしたところ、鈴木は、環境省の役人を議員会館に呼び、産廃の処理をどうするのか話してみましょうと提案した。その結果、9月25日17時半に、一色は環境省の課長ら2人と議員会館で面会し、鈴木と清島が同席した。このとき鈴木は、机を叩きながら、環境省の役人に迫っていたので、一色は「なかなかのやり手だな」と感じた。話し合いが終わると、一色は清島と鈴木と赤坂で食事をし、錦糸町のキャバクラなどを2軒ハシゴした。
2014年の11月、横浜のホテルで、「甘利明君を囲む会」があり、その会場で甘利は、一色に「その後、うまくいってますか?」と声をかけている。
一カ月後に衆議院総選挙が迫っていた2014年11月20日、一色は清島から金銭提供の依頼を受けたので、URとの交渉に尽力してくれる清島所長の頼みとあって、神奈川県平塚市の居酒屋で薩摩興業の名義と一色武の名義で現金50万円ずつを寄付したが、一色の50万円の寄附について清島は政治団体として届け出のない「甘利明事務所」と書いた手書きの領収書を出した。薩摩興業からの50万円については、神奈川県大和市第二支部の2014年分政治資金収支報告書に記載があったが、一色の50万円の寄附については、一切記載がなく、公選法が命じている、甘利明の選挙運動費用収支報告書清島は、一切記載がなかった。
URとの交渉は2015年に入っても、うまく進まなかったので、一色は、同年9月17日、被告発人清島に改めて相談した。そうすると、被告発人清島は、「もう一回仕切り直しましょう。甘利事務所で根回しして、決裁権のある人を出してもらいましょうかね」と言い、次の2通りの方法を提案した。
“正規ルート”では、「鈴木の方から現場の担当に上の人間を紹介しろ、と。で、薩摩興業さんが直接話をするからと。それが一つ。」、“本社ルート”では、「もう一つは、こちらから、どうなりました? っていう確認を入れると。本社に」
甘利事務所がより積極的に関与して、“正規ルート”と“本社ルート”の二方向でURへ話を通すというで、ここから、甘利事務所の口利きは一層露骨になっていく。なお、同日、国交省への口利きについて清島は、居酒屋で一色に対し、 「(何もしてくれないなら局長も商品券を)返せばよかったですよね、5万。ヘヘヘ」と話した(局長は、週刊文春の取材に受け取りを否定)。
同年10月5日、清島は、“正規ルート”によって、UR総務部の国会担当職員を大和事務所に呼び出し、一色、清島、鈴木と4名で産廃撤去について話し合った。清島氏は、この交渉直前、一色に「こっちも(URを)追い詰めていかないと」と意気込みを語っていた。国会担当職員が大和事務所に姿を見せると、まず鈴木が「ご相談事というのは、用地買収の部分で御社役員の方とお話をしたいっていうのが主なんですけど」とまくし立て、一色がこれまでの事情を説明すると、鈴木がURに「千葉のURの理事か何かいるよね。あのへん出してもらって、会社としてどのように現状を把握しているのか、というのを聞いていただいて。そういうのは可能ですかね」と圧力をかけた。補償交渉の資料に目を通した鈴木が「私、前向きだと思ったんだけど」と尋ね、URの国会担当職員が「後ろか前かで言ったら、前」と〉と応じた。
同年10月9日、秘書AとURが議員会館で面会した際、秘書Aは「ただ先方の話を聞いてもらうだけで良い。甘利事務所の顔を立ててもらえないか。何とかお願いしたい」と話し、URは「承知した」と応じ、秘書Aは「よろしくお願いしたい。本件はうちの事務所ではどうにもできないし、圧力をかけてカネが上がったなどあってはならないので、機構本社に一度話を聞いてもらう機会を作ったことをもって当事務所は本件から手を引きたい」と話した。
同年10月27日、一色は、UR側から連絡を受け、UR千葉ニュータウン事業本部を訪れた。この時、一色が、今回の交渉がセッティングされた経緯を尋ねると、URは次のように答えた。
「(一色が)甘利事務所の鈴木秘書に会われて、今回の補償の案件について、ちょっと要望されたというふうに伺っておりまして。それは鈴木秘書が仲立ちしていただきまして、ちょっと業者の人に会っていただけないかということで」
同日、議員会館の甘利事務所にURの総務部長とURの国会担当職員が姿を見せたと、清島は一色に説明し、鈴木のURへの“威圧”ぶりを自慢気に語った。
「開口一番威圧したんですよ。私たちは、今までこれほどこじれた話なんだから、現場ではなく、ちゃんと本社に持って帰る話だろうという話をしてたんです。」 「最初にガツンと会った瞬間に『あんたたち、俺たちの顔立てるっつったよな、わかんなかったの?』って言ったから。たぶん(UR側は)『いや、違います』と言い訳(をしていた)。」「こっちが威圧したから取り繕うような話になったんですけどね。」
さらに、清島は一色に対し、補償金額を具体的に要求するようアドバイスした。甘利事務所が補償交渉により介入しやすくするためにも、大まかな数字を出すべきだと助言した。
「一応推定20億かかりますとか、そういうなんか言葉にして欲しいんですよね。実際の金額について細かいとこまで絡めないんですよ。こういうところは今だったらギリギリ絡めるんで。」「今回(甘利事務所が)出ることによって、少しでも話がつきやすくなるのであればと思って、ギリギリの線出たんで。」
同年10月28日、秘書AとURは議員会館で面会した。その時の交渉は以下のようなものだった。
(秘書A) 一体先方はいくら欲しいのか?
(UR) 具体額はおっしゃらない
(秘書A) 私から先方に聞いても良いが?
(UR) 逆にこれ以上は関与されない方がよろしいように思う。先日もご説明したとおり、現在の提示額は基準上の限度いっぱいであり工夫の余地が全くなく、先方に聞いてしまうとそちらも当方も厳しくなる
同年11月2日、秘書Bと一色が神奈川県内で面会した。その時の会話は以下のようなものだった。
(秘書B) 具体的に数字を言わないと向こうはどうしていいか分かんないみたいなんですよ
(一色) 私はあくまでもコンクリ打ち直しをしてくれという話をしていて、数字の話は一切ないんですよ。一番びっくりしたのが、今日の会合はどういう経緯ですかって言ったら、いきなり「甘利大臣」から
(秘書B) 逆におれは聞かれたら出しますよと。それはうちの顔を立ててくれたんですよ。その2日後に説明に来たんですよ。うちの顔を立てましたと。本当にそういう意図かは知らないですよ※中略
(秘書B) コンクリートの費用がかかったとか、地下に埋まった分はどうするんだとか。そういうものなりを作って下さい
(一色氏) それじゃ推定どころじゃなく作れないですね
(秘書B) それは別に一色さんが計算する必要はないので。その代わりに下にある産廃はどうするんだ、まででいいです
(一色) それ言います。口頭でやります
(秘書B) 一応推定20億かかりますとか、かかると聞いておりますとか、そういう言葉にして欲しいんですよね。もしかしたら実際の金額について細かいとこまで絡めないですよ。こういうところは今だったらギリギリ絡めるんで
同年11月2日、一色武は、神奈川県大和市の飲食店で秘書と面会した際、「これでURの方がまとまっちゃうと思うんで、えっと○○さん(別の元秘書の名前)がレクサスでしたっけ」「カタログ持ってきてもらわないと。ご本人が全部オーダーしなきゃいけませんから」と発言し、秘書は、別の秘書にメールを打ちながら「一色さんが『レクサス何色がいいか』って聞いてるよ」と、文面を読み上げながら応じた。
同年11月12日、鈴木は、千葉県にあるURの事務所を一色と訪れ、URの会議に同席した。交渉を終え、鈴木は一色にこう感想を漏らした。
「こういうのなんだなってのが分かったし、次、打開策じゃないですけど、やり方も出てくると思います」
一色が「今日夜(URから)また電話来ますよ」と言うと、鈴木は「そしたらまた教えて下さいよ。これこれこうで、と進め方も考えられるんじゃないですかね」と応じた。
一色は、 この日、鈴木に「結婚祝い5万円、車代3万円」を手渡した。
同年12月1日、清島は再びURの総務部長を大和事務所に呼び出した。清島は後に、このときの交渉の様子を一色に報告した。
「『駄目なら駄目なりにね、なんで値段上げられないのかね』って言ったら、『そうですよね』と。」「『大臣もこの案件については知っているんで、こっちもちゃんと返事を返さなくちゃいけないんですよ』と言ったら、(UR側は)大臣のポスター見て『そりゃすぐやんないと駄目ですね』とか言って。」「あんだけ(自分が)『甘利事務所の名が出るのが嫌だ』って言いながら、もうここまで出たからいいやって、開き直ったんですけど、ハハハ。まだどう転ぶか、向こうから返事ないんで。でも、もうかなりこれは向こうを追い詰めたというか。」
同年12月16日、清島はまたもURの総務部長を大和事務所に呼び出した。一色にこう報告した。
「雑談をした時、(UR側は)『これ以上、甘利先生のところが深入りするのは、自分としても良くないと思います』と、そこから始まりました。そうはいっても、(私は)『うちは(一色氏とは)縁は切れませんよ』と。『だから、ちゃんと結論としては何かを出していただくしかないですよ』と言ったんです」
清島は甘利明の関与について、一色にこう明言した。
「『大臣もこの案件(URの件)は知ってるんで、こっちもちゃんと返事返さなくちゃいけないんですよ』って(URに)言った」(2015年12月7日、)
「『大臣さえ納得してれば、うちが納得すれば、お金を釣り上げるわけないでしょ』って(UR総務部長に言った)。『うちが納得するのは、ある程度、お金が釣り上がることだよ』と今日も言った」(同年12月22日)
交渉の当事者であるURは「週刊文春」に次のように回答した。
「10月5日、12月1日、16日に状況の確認との名目で、当機構の職員が大和事務所に呼び出されたのは事実です。清島氏や鈴木氏からは『前に進めるようなことを考えてほしい』という話がありました。『大臣にも報告しています』という発言もあった。秘書からの問い合わせはよくありますが、(3回も4回も呼ばれることは)あまりありません。」
一色の説明によると、薩摩興業および一色が2013年以降「口利きの見返り」として甘利やその秘書らに渡した金や接待で、確実な証拠が残っているものだけでも1200万円に上るが、確実な証拠が残っていないものも含めると、もっと高額になるという。
一色氏は2015年もURとの交渉に関して秘書と会うたびに、現金15万円を53回、計795万円を渡したが、いずれも秘書は領収書を作らなかったという。2015年6月と11月に開かれた甘利氏の政治資金パーティーの券も20万円ずつ計40万円分購入した。2014年も含めると、2014年~2015年に少なくとも900万円超を甘利氏側に提供したことになるという。
(6)あっせん利得処罰法違反
ア 「公職にある者」
被告発人甘利明が犯罪行為時に「公職にある者」であることは明らかである。 なお、被告発人清島健一及び被告発人鈴木陵允はあっせん利得処罰法2条にいう「衆議院議員の秘書」であることは明らかである。本件においては被告発人清島健一及び被告発人鈴木陵允は構成的身分犯である「公職にある者」と共同正犯となるので、秘書としての身分を有していることは犯罪の成否や科刑において影響を及ぼさない。
イ 「国又は地方公共団体が資本金の二分の一以上を出資している法人」
URが「国又は地方公共団体が資本金の二分の一以上を出資している法人」であることは明らかである。
ウ 「(イの法人が)締結する…その他の契約に関し」
上述したとおり、2013年の補償交渉における被告発人らの「口利き」は、URが千葉県白井市内に道路を敷設する工事予定地に隣接する薩摩興業占有地を工事用重機や資材置き場として使用することや、工事の振動で建物に生じた被害の賠償要求などに関連するURと薩摩興業との交渉に関する「口利き」である。すなわち、被告発人らは、URと薩摩興業との間の補償金額に関する交渉ならびにその結果としての補償契約(ないしは和解契約)に関して「口利き」を行ったのである。
2014年以降の新たなトラブルについての「口利き」も、URが千葉県白井市内に道路を敷設する工事予定地に隣接する薩摩興業が賃借している敷地に埋設された産業廃棄物の撤去費用の補償金などに関連する補償金額に関する交渉である。すなわち、被告発人らは、URと同社間の補償金額交渉ならびにその結果としての補償契約(ないしは和解契約)に関して「口利き」を行ったのである。
エ 「請託を受けて」
上述のとおり、被告発人らは、2013年の補償交渉における被告発人らの「口利き」及び2014年以降の新たなトラブルについての「口利き」を、薩摩興業の総務課長一色武からの依頼を受けて行っているので、「請託を受けた」ことは明らかである。
オ 「その権限に基づき影響力を行使して」
「権限に基づく影響力の行使」とは、国会議員の権限に直接または間接に由来する影響力を行使することのみならず、権限に随伴する事実上の職務行為から生ずる影響力を行使することも含まれると説明されている。あっせん利得処罰法にいう影響力は、権限に随伴する事実上の職務行為から生ずる影響力にその主眼があるというべきである。なぜなら、あっせん利得処罰法は議員秘書のあっせん行為も処罰対象としているところ、議員秘書自身が「国会議員の権限に基づく影響力」そのものを行使することなどできるはずはなく、そこでいう「影響力の行使」は事実上の職務行為から生ずる影響力をいうと解さざるを得ないからである。
そして、公職にある者がそのような「影響力」を有しているか否かは、公職者の立場、あっせんの際の言動、あっせんを受ける公務員の職務内容、その他諸般の事情を総合して判断される。
被告発人甘利明は、1983年に初当選以来、当選11期目の衆議院議員である。労働大臣、経済産業大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)等を歴任し、2012年にはいわゆる党三役の一角である政務調査会長を務めている。その上、安倍首相の盟友として安倍内閣を支えてきた人物であり、今回の犯罪行為時も経済再生大臣等を務める有力閣僚であった。すなわち、被告発人甘利明は、党内外に強く幅広い影響力を有する有力な国会議員である。そして、URは、国がほぼ全ての出資を行い、独立行政法人都市再生機構法に基づき設立された独立行政法人である。毎年、URには、国から多額の補助金が支出されている。したがって、被告発人甘利明の事実上の権限はURの職員に対しても当然及んでいると考えるべきである。
そして、被告発人清島健一及び被告発人鈴木陵允は、そのような影響力を背景として、議員会館や地元事務書等においてURに対し「甘利事務所の顔を立てろ」等述べながら交渉を行っているのであるから、事実上の職務行為から生じる影響力を行使しており、「権限に基づき影響力を行使して」いると評価されるべきである。
カ 「当該法人の…職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんしたこと」
被告発人らの行為は、UR職員に対し、URが職務上行うべき薩摩興業との保証契約(ないしは和解契約)締結行為やそのための交渉を行わせるために行った行為である。したがって、被告発人らの行為が「当該法人の…職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんしたこと」に該当することは明らかである。
キ 「(カにつき)その報酬として財産上の利益を収受したとき」被告発人らは、上記カのあっせん行為の報酬として、上述のとおり薩摩興業の総務課長一色武から現金を受け取るなど「財産上の利益を収受」している。
(7)共謀について
政治家とその公設秘書とは、その政治活動の職務遂行に関して、常に情報の共有の下徹底した指揮監督が貫かれて、一心一体となって活動しているものと考えられる。とりわけ、本件一連のあっせん行為においては、あっせん依頼者である一色において、被告発人清島健一および被告発人鈴木陵允のみならず、被告発人甘利明に対しても、直接請託の趣旨の説明をしており、報酬たる利益の収受も、被告発人3名ともに、直接収受していることから、共謀の存在についての容疑は十分というべきである。
なお、被告発人甘利明が本件告発を端緒とする訴追によって有罪判決を受けた場合には、公職選挙法第11条第1項第4号の「公職にある間に犯した『あっせん利得処罰法第1条の罪』により刑に処せられその執行を終わり、若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から5年を経過しないもの、又はその刑の執行猶予中の者」の公民権停止規程の適用を受けることになる。
被告発人甘利明の罪責に照らして、その政治家としての失格は明瞭であり、刑罰に加えて公民権停止となるべきが当然である。
(8)補充と情状
本件告発事件は、閣僚として政権の中枢にある有力政治家(被告発人甘利明)事務所が、民間建設会社の担当者からURへの口利きを依頼されて、URとのトラブルに介入して、その報酬を受領したという、あっせん利得処罰法が想定したとおりの犯罪である。
同法の保護法益は、「公職にある者(衆議院議員等の政治家)の政治活動の廉潔性ならびに、その廉潔性に対する国民の信頼」とされている。政治の廉潔性に対する国民の信頼と言い換えてもよい。本件の被告発人甘利明の行為は、政治の廉潔性に対する国民の信頼を著しく毀損した。
しかも、通例共犯者間の秘密の掟に隠されて表面化することのない犯罪が、対抗犯側から覚悟の「メディアへの告発」がなされ、しかも告発者側が克明に経過を記録し証拠を保存しているという稀有の事案である。世上に多くの論者が指摘しているとおり、この事件を立件できなければ、あっせん利得処罰法の適用例は永遠になく、立法が無意味だったことになろう。
被告発人らが、請託を受けたこと、その権限に基づく影響力を行使したこと、URの職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと、さらにその報酬として財産上の利益を収受に疑問の余地はないと思われる。
本件は決して軽微な事案ではない。「週刊文春」などの報道によれば、被告発人甘利らが、本件補償交渉に介入する以前には、UR側は「補償の意思はなかった」(週刊文春)、あるいは「1600万円に過ぎなかった」とされている。ところが、被告発人らが介入して以来、その金額は1億8000万円となり、さらに2億円となり、最終的には2億2000万円となった。
この経過は、有力政治家の口利きが有効であることを如実に示すものであり、本件を氷山の一角とする同種事件が秘密裡に蔓延していることを示唆するものである。
これを払拭するために、本件については厳正な捜査と処罰が必要とされている。被告発人らの本件被告発行為については、主権者の立場から「政治の廉潔性に対する国民の信頼を傷つけること甚だしい」と叱責せざるを得ない。
告発人らは、我が国の民主政治の充実とさらなる発展を望む理性ある主権者の声を代表して本告発に及ぶ。被告発人甘利明において、閣僚を辞したことによって十分な社会的責任を果たした、秘書を辞したから十分な制裁を受けた、などと糊塗してはならない。
とりわけ、いわゆるトカゲのシッポ切り同然に、すべてを秘書の責任に押しつけることによる、被告発人甘利明の刑事訴追対策に乗じられてはならない。
捜査機関の適切厳正な対応を期待してやまない。
2.被疑事実3(政治資金規正法違反)について
(1)政治資金規正法の定め
政治資金規正法は、政党や政治団体に対し、その政治資金についての収支報告書を作成し、それを総務大臣又は都道府県選挙管理委員会に提出するよう命じている(第12条、第19条の10)。
政治団体などが寄附を受領した場合について具体的に説明すると、同法は、「収入」として「寄附金額、寄附日時、寄附した者」の記載を要求している。そして、同法は、もし政治資金収支報告書に、その寄附について一切記載しなかったり、虚偽の記載をした場合には、「5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金に処する」と定め、刑罰でもって寄附の政治資金収支報告書への記載を厳しく要求しているのです(第25条第1項第2号・第3号)。
(2)被疑事実
①薩摩興業は、2013年8月、URから補償金約2億2000万円を得ることができたので、一色は、同年8月20日に現金1000万円を持参して大和事務所を訪れ、そこの応接室で、決着がついた「お礼」を清島に言い、1000万円を清島に差し出したところ、半分の500万円は「これは別の機会に」と清島から返された。清島は、一旦応接室を出てまた戻ってきたが、100万円と400万円の領収書を持ってきた。いずれも、発行元は自由民主党 神奈川県第十三選挙区支部で、宛名は薩摩興業だった。
②ところが、清島氏は後日、「先日の100万円の領収書」を、甘利の元秘書・藤代優也県議が代表を務める「自民党神奈川県大和市第二支部」が発行する「100万円の領収書」(2013年9月6日付)に替えてほしいと言われ、一色は「不思議に思ったものの、何か特別な事情があるのだろうと思い、所長の言うままに」領収書を受け取った。
③一カ月後に衆議院総選挙が迫っていた2014年11月20日、一色は清島から金銭提供の依頼を受けたので、URとの交渉に尽力してくれる清島所長の頼みとあって、神奈川県平塚市の居酒屋で薩摩興業の名義と一色武の名義で現金50万円ずつを寄付したが、一色の50万円の寄附について清島は政治団体として届け出のない「甘利明事務所」と書いた手書きの領収書を出した。
(3)政治資金規正法違反
2013年1月1日から2014年12月末まで、被告発人甘利明は「第13選挙区支部」の代表であり、被告発人清島健一は同支部の会計責任者であるところ、
①「第13選挙区支部」は2013年8月20日に薩摩興業㈱から被疑事実1における口利きのお礼として500万円の寄附を受領したと本件2013年分「第13選挙区支部」収支報告書の収入欄に記載する義務があったのに、被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀の上、500万円うちの100万円しか寄附の受領をしていないと虚偽記入して(収支報告書68頁)、同政治資金収支報告書を2014年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第3号に違反したものである。
② 「第13選挙区支部」は2013年9月6日に自由民主党神奈川県大和市第2支部に100万円を寄附したと本件2013年分「第13選挙区支部」収支報告書の支出欄に記載する義務があったのに、被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀の上、当該100万円は薩摩興業㈱が同日自由民主党神奈川県大和市第2支部に寄附したように偽装して、当該100万円の寄附を同収支報告書の支出欄に記載しないまま、同収支報告書を2014年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第2号に違反したものである。
③ 「第13選挙区支部」は2014年12月14日執行の衆議院議員総選挙前の同年11月20日に、被疑事実2における口利きのために薩摩興業㈱の総務担当者である一色武から50万円の寄附を受領したと本件2014年分「第13選挙区支部」収支報告書の支出欄に記載する義務があったのに、被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀の上、それを収入欄に一切記載しないまま、同収支報告書を2015年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第2号に違反したものである。
(4)被疑事実3の予備的告発について
①上記(3)②における100万円が薩摩興業㈱から自由民主党神奈川県大和市第2支部への寄附だったとして処理したことが合法であったとしても、上記(3)①における受領寄付は400万円になるところ、
被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀し、400万円の寄附を受領したと本件2013年分「第13選挙区支部」収支報告書の収入欄に記載する義務があったのに、そのうちの100万円しか寄附の受領をしていないと虚偽記入して同政治資金収支報告書を2014年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し
もって、同法第25条第1項第3号に違反したものである。
②上記(3)③における50万円の寄附が被告発人甘利明の選挙運動のための資金で、かつその受領者が自由民主党神奈川県大和市第2支部ではなく被告発人甘利明であったとしても、
被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀し、公職選挙法第189条第1項に定める「選挙運動に関する収支報告書」(同年11月19~12月26日までの第1回分)の収入覧に、50万円の寄附を受領したと旨記載する義務があったのに、それを一切記載しないまま、かつ出納責任者にその旨知らせず、同年12月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し、
もって、同法第246条第5の2号に違反したことになる(間接正犯)。
③被告発人甘利明は、被疑事実1における「口利きのお礼」として薩摩興業㈱から2013年11月14日に50万円の贈与を受け、また、被疑事実2における口利きのために薩摩興業㈱から2014年2月1日に50万円の贈与を受けているが、この合計100万円につき、本件2014年分「第13選挙区支部」収支報告書の収入欄に記載している、2014年2月4日に薩摩興業㈱から受領した寄附100万円であった旨(収支報告書67頁)説明しているが、
被告発人甘利明個人への合計100万円の贈与を、寄付者の意思を無視して勝手に「第13選挙区支部」への寄附として処理することは、真実を記載しなければならない政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたことになるから、被告発人甘利明と被告発人清島健一は共謀し、同収支報告書を2015年5月29日に神奈川県選挙管理委員会に提出し、
もって、政治資金規正法第25条第1項第3号に違反したことになる。
3 告発人らの告発の動機
告発人らは本件については週刊紙の報道後、直ちに告発を準備した。しかし当時、国会での審議や御庁が自ら強制捜査に踏み切ることの可能性に期待してその支障になってはいけないと判断して告発を保留していた。しかし御庁が安倍内閣に「遠慮」「配慮」してか捜査に着手しなかった様子である。そこで東京の弁護士らが告発したが、このままでは様々な「横やり」「配慮」などの結果、お茶を濁す可能性を心配すして、本件について御庁が本格的に捜査を遂げるためには、多くの関係者が告発する必要性を感じ、同時に広く、多くの国民に告発を呼びかけるためにも、自らも告発した次第である。
添 付 書 類1 委任状 19通(5通は後日追完)