政治資金オンブズマン

経団連への政治献金に反対する要請書

2004年1月20日

社団法人日本経済団体連合会
会長  奥田碩  殿

株主オンブズマン
(代表・森岡孝二関西大学教授)
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政治資金オンブズマン
(代表・上脇博之北九州市立大学法学部教授)
住所・TEL・FAX上記同
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要請書

1(要請の趣旨)

貴団体は、今年から、消費税、年金改革等の10項目の政党の政策を評価した上で、各会員企業に対して年会費相当額(その総額は年間40億円)の献金をするよう要請し始めました。

このような巨額の政治献金をバックに、政党の政策を評価するという名目で自己の要求を実現しようとすること(以下、経団連方式といいます)は、民主主義の原理ならびに貴団体の「企業行動憲章」にも抵触するもので、かかる行動を直ちに中止されたく要請いたします。

2(経団連の献金額の巨大さとその弊害)

1(1) 選挙権を有しない経団連が年間40億円もの企業献金を「斡旋」すれば、それを受け取る政党にとってはその金額の巨額さ故に、政党の収入を経団連の献金に依存させ、政党の政策が経団連の思う方向に誘導され又は買収される危険性が生じます。

① 自民党の2002年の1年間の収入は229.25億円です。このうち国から交付される政党交付金(151.63億円)、立法事業費(23.79億円)、合計175.42億円を控除すると、53.83億円です。この50億円余が企業、団体、個人、会費等の総収入となります。

② 民主党の同年の収入は106.60億円で、このうち国からの政党交付金(87.18億円)、委託費(13.47億円)の合計100.65億円を控除すると、残5.95億円が団体、個人、会費等の収入となります。

(2) 40億円の献金額を政党にどのように割り振るのか明らかではありませんが、自民党の企業、団体、個人献金の大半を補填し、民主党に至ってはこれまでの企業、団体からの献金額の数倍もの大きさを占める額となります。このような政党の寄附収入の大半、又はそれをはるかに越える巨額の金額でもって、選挙権を有しない団体が政党の財政を左右する献金を行うというのは、そもそも民主主義の原理として相容れません。またそれが認められれば、「国民政党」は財政上も政策上も「経団連依存政党」になり、その結果として「国民主権」は形骸化してしまい、実質的には「経団連主権」になってしまいます。

2 ある団体がその団体の固有要求を実現するために「政党の政策を評価」し、その評価点数に応じて献金を左右するという経団連献金方式が認められると、政党の政策が金で歪められます。特にその献金が政権党に集中すれば、政府の政策が金により誘導または買収されることになります。

このように、ある団体がその団体の固有要求を実現しようとすると、それがいかに「汚い」政治を作り出すかは以下の例を見れば明白です。

一例をあげます。

(1)① 2000年6月、出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)の制限利率が年40.004%から年29.2%に引き下げられました。但し、附則8条で3年後に「見直し」条項が入りました。これに危機感を抱いたサラ金業界は、2000年(平成12年)11月、全国貸金業政治連盟を結成し、3年後の2003年6月の見直しで、制限利率を年34.675%に引き上げるために、政党、国会議員に対する献金に動き始めました。2002年、同団体が自民党の財務金融部会の国会議員にパーティー券952万円相当の「政治献金」をしていることが問題となりました。

② しかし、この政治団体は業界の個人の献金で成り立っている団体であり、企業献金をすることを認めていません。
もし、団体、業界の要求を実現するため献金することが認められれば、武富士だけでもその経常利益は連結ベースで、平成14年3月期は2316億円、平成15年3月期で1832億円余りですので、これらの貸金業団体が自民党や民主党へ巨額の献金を開始したとすれば、政策を金で買収するという批判が必ずおこります。経団連の献金方式が認められるとすれば、サラ金業界の献金も許されることとなり、法案を、政策を、金で「誘導」「買収」することが可能となります。

(2) 同じように、防衛産業業界が防衛予算の増額や武器輸出禁止の見直しを求め、自民党や民主党の政策を評価して献金をすることも可能となります。

(3) 今、貴団体の主張のように、統一的に自己の固有の要求実現のために自民党等への巨額献金をすることが肯定されると、日本の政党は金によって「財界」や「業界」に支配されることになります。とりわけ、献金額が巨額であると、その金の力で、参政権を有する国民の自由な「言論」と平等な選挙権を前提に政党が政策を形成し実現するという民主主義の根本原則が崩れてしまうこととなります。

熊谷組の政治献金に関わる株主代表訴訟事件訴訟の福井地裁判決(2002年2月12日判決)は、企業の政治献金が国民の参政権を侵害し、政界と産業界との不正常な癒着を招く恐れがあることを、次のように指摘しています。
「これに比し、会社が政党に対して政治資金を寄附することは、会社が有する経済力が個々の国民を圧倒的に凌駕するのみでなく、同一産業界の会社が産業団体を結成して政治資金を寄附するときは、その影響力は個々の会社をもはるかに超えると考えられるから、それが政党に及ぼす影響力は個々の国民による政治資金の寄附に比してはるかに甚大である。政党の政策が会社あるいは産業団体からの政治資金の寄附によって左右されるとすれば、政党の政治上の主義、施策を選挙において訴え、選挙における国民の選択によってその活動に信任を得るという選挙制度の意義を否定し、その根幹をも揺るがすことになりかねず、政党政治そのものへの批判にも結びつくこととなる。従って、会社あるいは産業団体による政治資金の寄附の規模如何によっては、国民の有する選挙権ないし参政権を実質的に侵害するおそれがあることは否定できない。のみならず、会社あるいは産業団体の政治資金の寄附が特定の政党ないし政治団体にのみ集中するときは、当該政党のみが資金力を増大させて政治活動を強化することができ、ひいては国の政策にも決定的な影響力を及ぼすこととなって、過去に幾度となく繰り返された政界と産業界との不正常な癒着を招く温床ともなりかねない。そのため、会社あるいは産業団体による政治資金の寄附は謙抑的でなければならず、それは実質的に国民の選挙権ないし参政権を侵害することのない限度に止まるべきである」。

この指摘からも業界が統一的に献金することはその巨額さゆえに禁止されるべきものであります。

3(政治献金の対価性と無償性)

(1) 対価を公然と要求する寄附は、「企業の社会的貢献」ではありません。
10年前まで続けてきた経団連の政治献金の斡旋は「クリーンマネー」と呼ばれていました。金は出すが口を出さない献金であるという説明からでした。

一般に、社会貢献活動としての寄附は、対価を求めないからこそ多くの関係者から評価されてきているのです。企業の社会貢献活動で「対価を求める」寄附をなしたとすれば、その企業は多くの人々から「いやらしい」「ダーティー」な企業と批判されることでしょう。

経団連は、今回の「企業の自発的政治寄付に関する申し合わせ」において企業献金を「企業の社会的責任の一端としての社会貢献」と表明しています。しかし、これは「企業の社会的貢献」の概念を履き違えたものであるだけでなく、「企業の社会的責任」の概念を自ら貶めるものです。

今回、経団連が自己の固有の要求を掲げて、それを実現するために政党に献金をしているとすれば、それはきわめて「汚い金」を配布して政党、政治家の政策を誘導または買収していると、厳しく批判されなければなりません。政治献金を社会貢献活動という以上、「対価性」を求めてはならないのです。

(2) 政治献金に対価性を求めると、限りなく賄賂に近くなります。

① 大コンメンタール刑法(第7巻)(河上和雄外2名編集)は、政治献金と賄賂について次のとおり述べています(同388頁)。

a. 政治資金の寄付は、政治活動が特定の者の経済的利害と結び付きやすく、疑惑をもたらすことが少なくない。
b.しかし、政治家の多数は議員として公務に従事しあるいはこれを目指して政治活動を行っているものであり、政治資金の寄付の形態をとっている財産的利益の提供であってもこれが議員としての特定の職務行為の対価としての性格を持つことは十分あり得ることであって、このように実際に行われた政治献金が政治家の公務員としてのある具体的な職務行為と対価性を有する限り、政治献金であるからといってその賄賂としての性格が失われるものではない。
c. 政治家たる公務員の公務員としての特定の具体的な職務行為との関連で 提供者にとって有利な行為をすることを期待して行われるものであるので、職務行為に対する不法な報酬としての性格が認められるからである。
d. いずれも供与された金員が公務員の職務行為と対価性を有するかどうかの判断を行った上で結論を示しており、政治活動の資金の名目で提供されたものであっても、公務員の職務行為と具体的に対価関係が認められるかどうかを賄賂性を認めるかどうかの判断基準としているといえる(東京高判昭31・11・17判時167号4頁、東京高判昭34・12・26判時213号46頁、東京地判昭41・2・25判時459号10頁)。
e.政治献金と賄賂との関係が以上のようなものである以上、供与された金員について政治資金規正法所定の手続が採られているかどうかは賄賂性の有無を左右するものではなく、職務との対価性が認められれば同手続が採られていても賄賂に当たるし、職務との対価性が認められない場合は仮に同法違反の献金であっても、賄賂には該当しないこととなる(以上388頁)。
f.職務行為に対する対価と職務以外の行為に対する対価との双方が含まれていても、ある利益が不可分的に提供された場合には全体が包括して賄賂に当たるとするのが判例である(以上376頁)。

② 企業、団体、個人が自らの目的を実現するために議員に対して種々働きかけることは別に構わないが、その対価として金品を贈ることは許されない。政治献金をどのように定義しようとも、それが職務の対価として贈られる限り、それは賄賂にあたると解すべきである。なぜならば、政治資金規正法は、政治家の職務と対価関係にある政治献金に免罪符を与えるものでもなければ、それは賄賂性を洗浄する合理的根拠もないからである(『日本の経済と犯罪』)神山敏雄著、日本評論社240頁)。

③ 国会議員一人一人に交付すると刑法上の賄賂になるが、「政党」というフィルターを通すと賄賂にならないという形式論がありますが、これで多くの市民、株主の理解を得ることは不可能です。

(3) 経団連は自らの要求を実現するために政権党である自民党または政権の可能 性のある民主党へ統一的な献金をしようとしており、政党の政策の評価という名目で自らの要求を実現するという「対価性」=「政策の買収」=「賄賂性」は許されるものではありません。

なお、経団連は、HP上で、生命保険会社の大阪地裁判決を挙げて、政治献金が許されると例示していますが、生保の献金はこのような対価性を求めた献金の事案ではないという弁明を裁判所が受け入れただけで、経団連の今回のごとき対価性を求める献金が違法でないと判断したものではありません。経団連方式の献金についての判例は本日までのところありません。

4(貴団体の「企業行動憲章」の原則とも相容れません)

(1) 貴団体の前身の経団連は、1993(平成5)年9月に「企業献金に関する考え方」という文書を発表しています。その中で、「企業献金については、公的助成や個人献金の定着を促進しつつ、一定期間の後、廃止を含めて見直すべきである」という方針を打ち出しています。
当時の文書は企業献金の斡旋を中止する背景として「国民の間で企業献金への依存度を引き下げるべきとの意見が高まり、政界においてもそのための環境整備が図られつつある」という事情をあげていました。この事情はその後強まりこそすれ、なくなってはおりません。2003(平成15)年)の「政策本位の政治に向けた企業・団体寄付の促進について」という貴団体の文書では、企業献金を再開する理由として、政党助成は実現したが、期待された個人献金が伸び悩み、企業献金が大幅に減少したという事情を持ち出しています。しかし、これは斡旋を止めたら献金が減ったので斡旋を再開するというにすぎず、朝令暮改もはなはだしいと言わざるをえません。

(2) 貴団体は2002(平成14)年10月に、食品企業、電力会社、商社などの一連の企業不祥事を踏まえて、1996(平成8)年に改定した「経団連企業行動憲章」を再度改定して「企業行動憲章」を発表しました。その第2条は、「公正、透明、自由な競争を行う。また、政治、行政との健全かつ正常な関係を保つ」となっています。これは96年の企業行動憲章にもそのまま盛り込まれていましたが、その前の1991(平成3)年の7原則からなる企業行動憲章には含まれていなかったものです。このことは「政治、行政との健全かつ正常な関係を保つ」という原則は、1993(平成5)年の「企業献金に関する考え方」を受けて96年改定の企業行動憲章に取り込まれたことを示すものです。

企業行動憲章の「実行の手引き」は、「政治・行政との健全かつ正常な関係の構築」を解説して、「法律を遵守し、贈賄や違法な政治献金、利益供与を決して行なわないことは勿論、政治、行政との癒着という誤解を招きかねないような行為は行なわず、トップの方針としてこれを周知徹底する」としています。したがって、企業行動憲章の第2条は企業献金を推奨するどころか、自粛するように企業トップに要請しているものと解されます。

(3) さらに、企業行動憲章の第5条は「『良き企業市民』として、積極的に社会貢献活動を行う」となっています。さきの「手引き」では「社会貢献活動」としては、企業が「社会の一員として社会に役立つ事業活動を行う」という認識のもとに推進するNPOとの連携や、学術、教育、文化、芸術、スポーツなどへの寄附等の助成が想定されていますが、政治資金の寄附はどこにも含まれていません。

また、「手引き」は「社会貢献活動は、直接的な事業経営上の効果を期待するものではない」とも指摘しています。これに照らすとき、貴団体が特定の政策の実現を通じて直接的な事業経営上の効果を期待する企業献金を「社会貢献活動」というのは明らかに自己矛盾です。さらに、「手引き」は「社内外の人びとに自社の社会貢献活動を分かりやすく説明し、共感を得ながら活動を推進することが重要である」とも指摘しています。しかし、企業献金の実態は、企業での支出から実際の使途にいたるまで、従業員、株主、消費者にまったく知らされておらず、その点でも企業献金を社会貢献活動とは言うことはとうていできません。

5(企業は支出先の不明瞭な寄附をすべきではありません)

1(1) 自民党の2000年(平成12年)収支報告書のうち、「組織活動費」への支出総額は約95、585、503、882円です。うち、金8、503、850、000円が国会議員一人一人への「政策活動費」となっています。

これを見ると、     (円)
12.1.13  森  喜朗  1000万
   1.18    〃     3000万
   1.18     〃     2000万
   1.19     〃     1000万
   1.21  小渕 恵三   2000万
   1.21    〃     3000万
となっています(41頁)。
12.2. 1   森  喜朗   3000万
   2. 1    〃      3000万
   2. 1    〃      4000万
   2. 1  亀井 静香   1000万
   2. 1  古賀  誠    3000万
   2. 4  小渕 恵三   1000万
   2. 8  村上 正邦   1000万
   2.10  森  喜朗    3000万
等となっています(44~45頁)。
48頁以下になると、
12.4.25 野中 広務   3000万
   4.25 福田 康夫    500万
   4.25 中村 正三郎 1.5億
   4.25 小里 貞利   1.5億
   4.25 亀井 善之   7500万
   4.25 平沼 赳夫   1.5億
   4.25 野呂田芳成  1.5億
   4.25 麻生 太郎   5000万
   4.25 大島 理森   5000万
等と、億を超える金が各国会議員に交付されています(別紙参照)。
一般の国会議員にも配布されています。
12.6. 2 村山 達雄   1000万
   6. 2 櫻内 義雄   1000万
   6. 2 福田 康夫    300万
   6. 2 大原 一三    500万
   6. 2 上木 嘉郎    500万
   6. 2 森田  一    500万
   6. 2 西田  司    500万
   6. 2 七条  明    500万

これらの金の最終支出先は、同人の資金管理団体の収支報告書に一切記入がありません。

以上のように政治献金は自民党の国会議員一人一人に配布されましたが、何に費消されたのか全く不明な金となっています。この点、政党が国会議員に上記のとおり支払い、かつ、それを貰った国会議員が収支報告書に記載しなくとも法的には何ら違法ではないというのが「公式見解」とされています。

(2) 自民党の国会議員一人一人に交付された金額の総額は次のとおりです。
1996(平成8 )年  74.43億円
1997(平成9 )年  28.91億円
1998(平成10)年  58.50億円
1999(平成11)年  48.04億円
2000(平成12)年  85.03億円
2001(平成13)年  58.20億円
2002(平成14)年  45.64億円
合計         398.75億円

このように、支出が一切開示されない政党の政策活動費として交付されている実態がある限り、なおさら企業は献金をすべきではありません。

6(結論)

以上の理由から、貴団体が会員企業に対しておこなっている政治献金の要請行動を直ちに中止するよう要求する次第です。

なお、私たちは、上記のような、政党の政策を金で誘導、買収する献金方式については、広く株主にも呼びかけ、株主代表訴訟を含む必要な批判活動を続けるつもりであることを付言します。

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