ゼネコンの長崎県連への献金 3.㈱熊谷組
冠省、益々御清栄のことと存じます。
当職らは貴社の株式(1単元以上)を6ヶ月以上前から引き続き保有している株主である泉南市○○○の代理人です。
貴社は1992年(平成4年)以降、1999年(平成11年)までの間に、つぎのとおり自由民主党の長崎県支部連合会に対し合計2800万円の政治献金を行なっています。
1992年 300万円
1993年 300万円
1994年 300万円
1995年 100万円
1997年 900万円
1998年 600万円
1999年 300万円
貴社を含む大規模ゼネコン会社は、国並びに自治体の公共事業を常時受注してきており、その売上高及び損益はこれら公共事業に大きく依存しているものです。
長崎県内で行なわれている諫早湾干拓事業についても東洋建設、世紀東急工業等との共同企業体をもって、つぎの工事を国から受注しており、その合計額は110億3146万5000円に及んでいます。
1992年度 C区間・4工区・潮受堤防4工区(その1)建設工事
受注額 31億1575万円
1995年度 C区間・4工区・潮受堤防4工区(その2)建設工事
受注額 19億2095万円
1995年度 C区間・4工区・潮受堤防4工区(その3)建設工事
受注額 12億9780万円
1996年度 C区間・4工区・潮受堤防4工区(その4)建設工事
受注額 6億8250万円
1997年度 C区間・4工区・潮受堤防4工区(その5)建設工事
受注額 5億0316万円
1997年度 C区間・4工区・潮受堤防4工区(その6)建設工事
受注額 1億6590万円
1998年度 C区間・4工区・潮受堤防4工区(その7)建設工事
受注額 4億3260万円
1999年度 前面堤防3工区(その2)
受注額 19億8240万円
1999年度 前面堤防3工区(その2)
受注額 9億2610万円
2000年度 北部取付道路設備工事
受注額 430万5千円
諫早湾干拓事業の工事以外についても、長崎県内において、国、自治体の公共工事につき貴社は重大な利害関係を有するものです。
本件政治献金を違法と考える第一の点は、それが賄賂性を帯有している点です。即ち、貴社が献金を行なってきた自民党長崎県連は国、地方公共団体の与党として、公共事業につき大きな影響力を行使しうる立場にあることは明らかです。
自民党(その政治資金管理団体としての国民政治協会)に対する政治献金であるならば、かつてにおいては「自由主義経済の維持のために」とか、現在においては「企業の安定的・持続的発展を維持するために」などの「名分」があるかも知れません。しかし、ゼネコンにあっては、公共事業についての国、自治体の政策決定と企業の利益は密接な関係にあります。従って「企業の安定的・持続的発展」とは公共事業振興政策の採用につながり、そのための政治献金は常に国、自治体の政策を期待してなされる献金として、賄賂性を帯有しているものです。
更に、自民党の特定の県の支部連合会である長崎県連に対する本件政治献金は、県内で行なわれている公共事業の受注について、自民党県連の影響力行使を期待するか、少なくも他のゼネコン等が競うようにして献金しているなかで、受注について不利益な取扱いをされないようにとの意図から献金していることは容易に推認できるものです。
従って、貴社による本件政治献金は、限りなく賄賂性を帯びたものであり、公序に反する政治献金です。
第2の点は、公選法199条1項に抵触するおそれのある行為であるという点です。
即ち公職選挙法199条1項は、「衆議院選挙及び参議院選挙に関しては、国と地方公共団体の議員及び長の選挙に関しては、当該地方公共団体と、請負その他特別の利益を伴う契約の当事者である者は、当該選挙に関し寄附をしてはならない。」として、国または地方公共団体と請負、その他特別の利益を伴う契約の当事者の寄附(政治献金)の禁止を、罰則をもって定めています。
この定めは、請負関係等にあるゼネコン等の企業が、政党、議員等に寄附をすることがあると、選挙及びその後の政治の面で不明朗な影響を及ぼすおそれがあるので、これを防止する趣旨です。
たしかに、この定めは「当該選挙に関し寄附」をすることを禁圧するものであり、政党等に対する寄附を禁じているものではありません。しかし、議会制民主主義下における政党は、最終的には選挙における多数の獲得を目標にして全ての活動を展開しています。選挙を離れて政党の活動はあり得ません。
従って政党に寄附する以上、その政党が選挙において少しでも多くの国民の支持を獲得することを願って寄附しているものです。選挙を離れての寄附は理論上あり得ません。
このことからするなら、国、地方公共団体と継続的かつ巨額の公共事業につき請負契約関係にあるゼネコンの政党や政治資金団体に対する献金は、公職選挙法199条1項に抵触するおそれのある、公序に反する行為です。
第3には、貴社の前記政治献金は、自然人たる個人にのみ与えられている国民の参政権を、経済力を有する大企業が、個人では到底なしえない巨額の政治献金を行なうことによって金の力で歪めるものである点です。
第4には、株主からすれば、個々の株主の政治的信条に反してなされる政治献金であり、その政治的信条に抵触するものです。
この点からも本件政治献金は公序に反するものである点です。
更に第5には、株主の利益に反する無償の利益の供与は、営利を目的とする株式会社の定款目的に反するものであり、権利能力の範囲外の行為であることです。
そして以上の各点を考え合わせるなら、少なくも本件政治献金をなしたことは、取締役との善管注意義務に反することは明らかと考えます。
よって当職らは当職本人を代理して、1992年から1999年までの間に在任した代表取締役社長、並びに前記各献金の支出を決済し、それを担当した各取締役に対し、前記政治献金相当額の賠償を求める訴訟を、本書面送達後60日以内に提訴することを求めるものです。
この期間内に提訴なきときは、当職本人において株主代表訴訟を提訴することになりますので、御了承ください。
以上、要用のみにて失礼致します。
平成14年12月3日
大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館8階
○○○代理人
弁護士 阪 口 徳 雄
大阪市中央区大手前1-7-31
OMMビル5階
同
弁護士 辻 公 雄
堺市中瓦町1-4-27小西ビル6階
同
弁護士 松 丸 正
福井市中央2-6-8
株式会社 熊 谷 組
監査役 平 沢 秀 男 殿
同 滝 沢 和 夫 殿
同 敷 田 稔 殿
同 小 嶋 正 己 殿