政治資金オンブズマン

大手ゼネコンが自民党長崎県連へ長年継続的に献金している実態について(準備書面)

平成15年(ワ)第26706号 五洋建設政治献金等株主代表訴訟事件
原 告 三宅陸郎
被 告 水野廉平 外3名

準 備 書 面 (3)

2005年(平成17年)2月9日

東京地方裁判所
  民事8部合議係 御 中 

原告訴訟代理人(代表)
弁 護 士   松   丸    正

第1 はじめに
1 自民党長崎県連に対するゼネコン企業の異常な献金実態
(1) 1989年から2001年までの間のゼネコン各社の長崎県連に対する献金を、県選挙管理委員会に提出している収支報告書から整理すると、別表のとおり継続的に献金している(甲17号証の1乃至14)。

(2) 長崎地検が九州、沖縄の各県の自民党の県連の収支報告書を1999年(平成11年)から2001年(平成13年)までのゼネコン11社を調査した結果、長崎県連への献金が「他県に比べて突出していることが判明した」と述べている(甲16号証、捜査報告書)。

2 何故、ゼネコン各社は、自民党長崎県連に対して継続的に献金しているのか
 詳細は後述するが、自民党長崎県連幹事長が長崎県発注に係る公共工事の受注の調整に絶大な権力を有しており、自民党長崎県連からの寄附要求を拒否することが出来ないという認識があった。その背景には、寄附要求を断った建設会社がその後長崎県の公共工事を受注できなくなったという事実があったからである。 また、ゼネコン各社は上記受け身の立場だけでなく、長崎県の公共工事を受注するために、自民党長崎県連へ積極的に献金をしている実態もあった。

3 本件献金の本質
 以上のごとき、公共工事を受注するため又は不利益取扱いを受けないための献金は、地方自治体の入札をゆがめる性質を有し、公序良俗に反する献金である。このような献金は、いくら会社の「利益」になるとしても、会社として公序良俗に反し許されないものである。

第2 自民党長崎県連の公共工事の受注に対する支配の実態
1 自民党長崎県連の実態
(1) 長崎県連が金を必要とした理由
 長崎県連の活動費は月当たり約1000万円、年間約1億2000万円であった。そこから、職員の給与や政治活動に必要な組織活動費が支払われる他に、自民党所属の長崎県議が勝手に送りつけてくるスナック等の飲み屋の代金も必要であった。すなわち、長崎県議の飲食代を長崎県連が肩代わりすることが慣行化され、長崎県議達は長崎県連の活動費をあたかも自分達のお金であるかのように見ており、長崎県議のポケットマネーであるかのように使われることもあった。そのため、長崎県連の事務局長らは、長崎県連の蓄えはいくらあっても足りないという気持ちになり、企業の献金に依存し、その上、法律に違反した献金であっても構わないと思うようになり、なりふり構わず企業に露骨に献金を要請した(甲5号証の13、5~6頁)。企業一般でなく公共工事を受注しているゼネコンである。これにはゼネコンに献金を要請する経済的背景があった。

(2) 幹事長に長崎県連の権限が集中していた
 長崎県連会長に就任する国会議員は東京を活動拠点としており、長崎県連に来るのは、党大会や常任総務会等の重要な行事に限られる。従って、日々の長崎県連における「党務」の執行は長崎県議である幹事長に委ねられていた。長崎県連の運営、業務の一切合切の権限は幹事長にあるのである。その結果、幹事長に権限が集中した(甲4号証の22、2~3頁)。

(3) 幹事長が権限を発揮する幹事長機密費という裏金の存在
 その幹事長が権限を発揮するための武器として幹事長機密費があった。収支報告書に記載される表の活動費の他に、収支報告書に記載されない「幹事長機密費」という裏の活動費がこれである。
 幹事長機密費は収支報告書に記載されない違法な活動費であるが、長崎県連では古くから伝統的に存在していた。浅田幹事長によると、100万円単位で総額約2000万円もの幹事長機密費を受け取っており、自分だけの判断で領収証なしに使っていた。
 その使途は党勢拡大のためと言うが、実際は、その大半を自民党会派に所属する長崎県議等に対し、浅田幹事長の判断で金を配っていた。長崎県連の事務局長へ100万円を、浅田の幹事長就任時に競争相手になった長崎県議の派閥の首領でもあり、以前の知事選の総括責任者でもあった長崎県議へ合計600万円を、浅田が特に親しかったり愛がっていたりした長崎県議6名には各100万円を、他の10長崎県議には各約40万円を、それぞれ渡した。また、自民党会派以外でも、自民党系の長崎県議2名には各20万円を渡した。さらに、自民党の一般党員及び党友約20名に対しても各数十万円を渡し、支援者への飲ませ食わせ等に使わせた(甲4号証の28、1~10頁)。このように金を配ることにより、幹事長は名実ともに党を支配していった。従って、幹事長機密費の管理もずさんであった。事務局長が管理する金庫に入れ、幹事長の必要に応じてその金庫から取り出されていた。その出入りの帳簿は作成されておらず、事務局長が幹事長に渡す時に残高を報告していた。また、幹事長機密費は幹事長一代限りのものであって、幹事長が使い切るので引継はしていない(甲5号証の14、1~6頁)。

(4) 幹事長の裏金を支えていたのはゼネコンの献金である
 このような裏金である幹事長機密費の財源はヤミ献金である。浅田幹事長によると、ゼネコン各社からのヤミ献金を度々受け入れていた。
 平成13年には、TK建設が300万円を、M建設が300万円を、SM建設が240万円を、若築建設が500万円を、SU建設が100万円を、それぞれ支払った(甲4号証の20、7頁)。
 浅田幹事長の先代である加藤寛治幹事長等は、「21世紀に向けて日本を語る」長崎の集いで集められた収益のうち、3404万円もの機密費を作出したことがあった。この時に販売されたパーティー券1万1095枚のうち1702枚が非公式での発行であったので、その販売代金が機密費になった。これらのパーティー券も結局のところゼネコンがこれを支えていた(甲5号証の14、8~13頁)。

2 長崎県の公共工事受注の調達は自民党幹事長が支配していた
(1) T建設は幹事長の寄附要請を拒否したので長崎県の公共工事が受注できなくなった
 T建設が長崎県連幹事長からの寄附要請を断ったことがある。当時の長崎県連幹事長が寄附要請に来た際、長崎県連幹事長はソファーに体を反らせるようにして座り、高圧的な態度で献金を要請した。T建設営業部管理室長が本社の方針だということで献金を断ったところ、長崎県連幹事長は、「どこの会社も寄附に協力してくれている。そんなことを言うのはT建設さんだけだ。」と言って非難した上で、さらに、パーティー券を300枚購入するように要請した。T建設側が同社の基準を超えるということでそれも断ったところ、長崎県連幹事長は、「私は総会屋じゃないんですよ。T建設さんは仕事はいらないんだね。」と言って脅した。それでもT建設側が断り続けたところ、その平成9年以降は長崎県の工事を受注できなくなった。T建設としては、長崎県連からの献金要請を断ったから工事を受注できなくなったとしか考えられないとしている(甲13号証の1、2)。

(2) 県連への献金が少ないと長崎県の公共工事を受注できないが、多く献金すると受注できた
 かつて、長崎県住宅供給公社が発注した諫早西部団地宅地造成工事の受注に関し、F建設が、発注者に対して資料を提供したり、土地の売主から施工業者として推薦してもらったりして積極的に営業活動を展開した結果、ほとんど対抗馬となるような会社がいなくなり、後は地元業者のトップを走っているT建設工業とのJVを組みさえすれば受注できるところまでいき、同社の担当者からは、是非JVを組んでくれと言われるまでになった。
 ところが、F建設が長崎県連幹事長に挨拶に行った際、幹事長から「献金が少ない」と言われて突き放された。その時、安田事務局長から、F建設の献金額が20位台後半であるから受注を諦めるしかないと言われた。
 その後、T建設工業の社長にJVを組もうと持ちかけたところ、1日待たされた上で、理由を言われることもなくJV締結を拒絶された。その結果、T建設工業とJVを組んだA組が受注した。F建設としては、長崎県連幹事長が影響力を行使したためにこの工事を失注したと考えるほかなく、以後は献金額を大幅に増やし、長崎県連からの献金依頼には全て応じることにした。すると、工事受注に関して妨害を受けることはなくなった。当社も遅れてはならないとの考えから、その年、県連に対し100万円ずつ2回合計200万円を寄附したが、幹事長はこれでは足りないとの考えであり、その後F建設が500万円、600万円と多くの献金をするようになった。
 ちなみに、F建設は公表された収支報告書から見ると、平成1年から平成4年まで100万~150万円を寄附しているが、平成5年から平成9年までは収支報告書に記載がない。平成10年に200万円とあり、平成11年に500万円、平成12年、13年に各600万円と増えている。多く献金することにより受注を得ることになったのである(甲11号証の18)(甲11号証の11)。

(3) 自民党の幹事長が長崎県の公共工事の入札における談合屋に重大な影響力を有していた
 自民党の幹事長が長崎県の公共工事の入札に上記のとおり力を発揮できたのは、公正な競争入札を妨害する者(談合屋)に対し、幹事長が重大な影響力を有していたからである。
 平成13年当時、TK建設九州支店では談合を担当していたのは○○次長だったが、同人の話では、工事受注に際しては、長崎県連幹事長の了解を得た上で特定の談合仕切人(これが誰であるかは、開示された部分だけでは明らかでない。)に了承してもらう過程で調整ができるということであった。実際に、TK建設長崎営業所長が増田トンネル工事の受注に向けて営業活動をした時、浅田幹事長から快い返事をもらえなかったので失注した。
 その後、金水トンネル工事に関する営業活動をした際、浅田幹事長から、「今回は何とかするから」と言われた。それで、営業所長がどの業者とJVを組めば良いかと尋ねたところ、浅田幹事長は、SK工業とT建設工業を指名し、その旨を談合仕切人に伝えるようにと言った。その後、営業所長が談合仕切人に連絡したところ、その談合仕切人は全てを了解していた。また、SK工業の担当者○○に連絡したところ、○○も、幹事長からTK建設と組むように言われていると言った。それから入札までの間に、本件違法献金の要請を受け、その要請に応えたところ、談合仕切人が決めた最低入札価格を教えてもらい、その結果、金水トンネル工事を受注できた(甲14号証の2)。  結局のところ、浅田幹事長が談合仕切人に根回しをして、業者間を取り仕切って談合による入札が行なわれたため受注ができたわけである。
 他方、長崎県連幹事長は土木建築業者に対し、長崎県連への寄附金額を増やすように要請したり、当時の長崎県連幹事長を支持後援する特定の下請業者を指名して、その選定を指導したりする。

(4) 幹事長の了解なしには長崎県の公共工事の入札ができなかった
  以上のように、長崎県においては、同県が発注する公共事業の受注は談合によって決められていることが多いからか、公共事業を受注するためには、その談合に対して大きな影響力を有する長崎県連幹事長の了解を得なければならなかった。
 そのため、土木建築業者は、公共工事を受注するため、長崎県連幹事長のところに頻繁に挨拶回りしたり、長崎県連に対して多額の献金を行なう実態が生まれた。

第3 違法献金でも受け入れる企業側の体質
1 金子原二郎知事選に関する違法献金
(1) 平成14年2月3日の長崎県知事選では自民党は現職金子原二郎県知事を推薦した。金子知事自らは、今回の選挙だけでなく、次回の選挙にも出馬するので圧倒的勝利を望んでおり、投票率のアップを目標とした。ところが、金子知事とその後援会は選挙資金を使わないと表明していたから、この全額を長崎県連が賄えと言っているようなものである。そこで、その選挙費用を長崎県連が調達する必要が生じた。
 長崎県知事選では長崎県全土が対象である。従って、長崎県連が取りまとめる地域支部、職域支部、職員支部全てがフル稼働し、自民党に相乗りした各党並びに労働団体もフル稼働することになる。
 長崎県連は、地域支部、職域支部に対し選挙関係費という名目で党員数に応じて助成し、各長崎県議会議員に対し組織活動費という名目で助成する。各議員支部は、選挙期間以前は自己の後援者へ県知事選のパンフレット等の書類を送ったり電話をかけたりし、選挙期間中は後援者へ電話掛けや選挙演説の手伝いを依頼する。
 長崎県連幹事長は、その職責として選挙資金を集めなければならない。平成10年度に行なわれた参議院選挙の際には約7500万円使ったので、知事選には最低7000万円必要なので、今回は目標を1億円にした。

(2) 当時、長崎県連には、平成13年度の前年度繰越金が約2億5000万円あったが、浅田五郎幹事長は、安田實穂事務局長と相談し、自民党員でもない知事の選挙に自民等の運営資金を使うことはできないと判断した。そこで、選挙費用1億円のうち、5000万円をゼネコン大手から、3000万円を港湾業者から、2000万円を地元の業者から集めることとした(甲4号証の1)。
 平成13年11月19日、浅田幹事長と安田事務局長は、長崎県連事務所において、長崎県建設業協会中央支部の役職員(O組長崎営業所長の××支部長、五洋建設長崎営業所長の××副支部長、M建設工業長崎営業所長の××副支部長、××事務局長)を電話で呼び付けて、支部会員からの5000万円の献金を取りまとめるように依頼した。その依頼は、金子知事在職中の過去4年間における長崎県からの公共事業受注実績に応じて各企業の献金額を決めるとともに、その献金依頼と受領を支部にさせようとするものであった。
 これに対し、中央支部の役職員は、そもそも支部が献金を取りまとめるような立場にはないし、本件献金は選挙資金に使われるから違法であるので、献金の取りまとめを断った(甲4号証の2)。
 浅田幹事長らは、自らが企業(ゼネコン)の福岡支店に出向いて献金集めをすることとし、その根回しを中央支部役職員に依頼した。その依頼は、各企業に本件献金の趣旨を周知させるだけでなく、各企業に寄附依頼する時刻、場所までも手配させるものであった。また、寄附依頼先は、支部会員でない企業や、さほどの受注実績のない企業も含まれていた。さらに、当時の時点で現に公共事業を受注している企業、銀行に債権放棄を要請している企業、別件の贈収賄事件や談合事件で騒がれている企業も含まれていた。
 これに対し中央支部の役職員は、このような根回しすることはやむを得ないと事前から考えており、過去4年間の公共工事受注実績を持参してきていた。それで、話はまとまった。

(3) 結局、当番企業である五洋建設が段取りを組んで、平成13年12月12日と13日に、浅田幹事長らが各企業の九州支店(福岡市内所在)を回って献金依頼することにした。その献金依頼は、主として公共事業受注実績に応じて安田が予め決めていた各企業ごとの献金額を支払うように一方的に要請するものであった(甲4号証の6)。
 すなわち、平成12年度及び13年度の献金実績と金子県政4年間の工事受注実績を基準にして、TN工務店300万円、TN土木200万円、TY建設100万円、DN土木300万円、TD建設200万円、OM組200万円、HZ組100万円、SM建設300万円、熊谷組200万円、TB建設300万円、S工業100万円、NM建設300万円、五洋建設1000万円、KO組200万円、OO組200万円、SI組200万円、若築建設500万円、NK開発100万円、KM建設300万円、F建設300万円、K建設500万円、TA建設工業100万円、FU300万円、SA建設工業100万円、TH建設300万円、M建設工業200万円、A組200万円、O組500万円、SU建設100万円、TK建設500万円、T建設100万円とした(甲5号証の5)。
 具体的には、若築建設が例年500万円であり、O組とK建設の受注金額が若築建設に比肩するのでそれぞれを500万円とし、五洋建設の受注金額は若築建設のほぼ倍であったので1000万円にした。また、TK建設は平成12年及び13年の寄附金額が500万円だったので同額にした。

(4) 献金を依頼する際の浅田幹事長らの態度は高圧的であり、企業が献金依頼を断れば長崎県発注の公共事業を受注させないという態度が顕著であった。浅田幹事長の考え方は、「金子県政4年間で受注が多かった企業は、それだけ金子や長崎県連にお世話になっている。お世話になった恩は返さなければならない。だから企業は喜んで協力してくれる筈だ。」というものであった。  また、献金要請の時には、前日から五洋建設九州支店の担当者が浅田幹事長らの宿泊するホテルまで出迎え、献金要請中の飲食費を五洋建設が全て支払うというものであった(甲7号証の2)。

2 違法献金でも受け入れる各企業の実態
(1) 五洋建設
① 五洋建設は300万円の献金を行なった。

② 五洋建設では、献金要請があった場合、長崎営業所長、九州支店経理課長、総務部長、副支店長2名、支店長の各決裁を受けた後に、本社へ稟議を上げる。本社では最終的には副社長が決裁する(××検面調書・甲7号証の2、8頁)(○○検面調書・甲7号証の10、2頁)。

③ 本件では、担当者は、本件献金が選挙のための違法献金であるとして報告したら会社が拒絶するので、通常の献金だという嘘をついて決裁をとったと供述している。
 その担当者が嘘をついてまで決裁を取って献金を実行した理由は以下のとおりである。すなわち、「五洋建設にとっては、長崎県内における受注工事の約8割が公共工事であり、長崎県発注の工事の受注実績は五洋建設がトップであった。しかし、長崎県から受注するのは主として港湾工事で、工事価格は1000万円~2億円くらいという小規模なものがほとんどであった。従って、コンスタントに受注しなければならないのであるが、指名競争入札に加わるためには長崎県に指名してもらう必要がある。自民党は議会の多数派なので、自民党長崎県連幹事長は大きな影響力を持つ。自民党長崎県連に嫌われて変な噂を流されたら当社が指名から外されるおそれがある。今回の違法献金要請を断れば、長崎長崎県連から「五洋はこんなに工事を取らせてやっているのに献金しないとは何事だ」と思われるに違いない。過去にパーティー券の購入をいったん断った際、幹事長の態度に怖い思いをして断り切れなかったことがあったので、違法献金であっても断るわけにはいかなかった。」(甲7号証の2、6~7頁)。

④ 「パーティー券の購入について恐い思いをしたという事実は、加藤寛治幹事長の時代に中央支部が県連からパーティー券『21世紀に向けての日本を語る長崎の集い』1000枚が送られてきた。この時に中央支部役員は応じられないという結論になったのでこのパーティー券を自民党長崎県連に返そうとしたが、加藤幹事長、安田事務局長から購入を断ったことを叱られ、返そうとしたパーティー券を逆に突き返された。仕方なく1000枚のパーティー券を各員各社が受注実績等を参考にして各社ごとに割りふった。五洋建設は125枚のパーティー券を割りふられた。パーティー券の購入を断ると「五洋はたくさん工事をとらせてやっているのに断った」と思われ、指名から外される等の妨害を受けるのではないかと思ったので購入したことを述べている(甲7号証の5)。

⑤ なお、五洋建設が300万円の献金を行なった後、さらに安田幹事長から、「協力会社にもお願いしてもらえんやろか」と頼まれたので、「協力会社5社から50万円ずつ、計250万円を献金させた。その協力会社は、○○、○○、○○、○○、○○である。この各社は、五洋建設からの要請を断れば、工事を受注できないと考えて寄附に応じたに違いない。」(甲7号証の2、8頁以下)。

(2) 若築建設は要請どおりに500万円の献金を行なった。
 同社は長崎県発注の公共事業を多く受注したから多額になった。13年度は既に500万円の寄附をしていたし、平成12年に中尾栄一元建設大臣への贈収賄事件で騒がれたので、若築建設は一旦断ったが、さらに浅田幹事長が強く要請したので寄附が実行された。
 なお、本件献金は違法であるため本社総務部長の決裁が通らないので、九州支社の特別交際費(使途秘匿金)を使ったと供述している。当時の九州支店長は、「寄附を断り切れない事情があるのだろう。当社だけ寄附を断るわけにはいかない。」と思い今回の寄附を承認したと述べている(甲8号証の10)。

(3) TB建設は300万円の献金を行なった。
 この献金は領収証のないヤミ献金であった。TB建設が中央支部役員ではないのにヤミ献金を行った理由は次のとおりである。
 平成9年ころ、銀行等から6000億円の債務免除を受けた。それ以来、表の献金は表面上は年間50万円に減らさざるを得なくなった。しかし、他の会社が献金しているのに当社だけがしなければ、受注競争において当社だけが取り残されると思って、ヤミ献金を50万円以上行なっていた。平成12年度は、収支報告書上は50万円しかなかったが、ヤミ献金は200万円にも上った。
 このヤミ献金の原資は裏金(使途秘匿金)である。この裏金は九州支店で年間約3000万円あり、工事の受注に影響力を有しているとされる政治家や、民間工事の場合にはコンサルタントに支払うものである。ただし、部長クラス以上の幹部職員が飲食費として使うことも度々あった。その支出理由は「お歳暮」とか、「お中元」という虚偽の事実にする。裏金を支出すると、実際に支出した額と同程度の金額の税金を支払わなければならないが、受注のために必要な場合には支出せざるを得ないものである。
 同社の担当者は、「これに応じたのは、献金においても他社と同じスタートラインに立ち、当社だけが取り残されないようにするためであり、また、県発注のオランダ板トンネル上り線その2の工事を施工中のため、今後とも長崎県と良い関係を保つために知事選に協力するのはやむを得ないと思った。」(甲9号証の1)「寄附をしないと工事を受注する上で支障があるというところが偽らざる実情であり、会社運営上背に腹は替えられないので、債務免除を受けても献金を続けていた。」(甲9号証の2)「土木業界では政治家の方々に熱心に働きかけることが重要であり、長崎県連の方からの働きかけにより同業他社に引けをとらないようにするため献金した」(甲9号証の5)と述べている。

(4) F建設は300万円の献金を行なった。
 これも違法献金であれば九州支店の決裁が取れないので、一般寄附として決裁をとった。
 同社の内部での稟議書では、
                                当社工事受注額
  当社献金額額=長崎中央支部からの献金希望総額× 長崎中央支部会員工事受注額

 を基準として献金額を計算して稟議を出している。
 F建設では、寄附金やパーティー券購入代金として平成13年度は1000万円強あったが、長崎県連からの要請がなければ、当社から進んで献金することはなかった。
 長崎県連への献金は、従前100万円程度だったが、当時の長崎県連幹事長から少ないと言われて300万円に増やしたという経緯がある。同業者のT建設が寄附を断ったために工事を取れなくなったと聞き、確かにある時期からT建設は工事を取っていないという事実があるので、本件献金要請を断るという選択肢は初めからなかった。

(5) S工業は、会社更生法の適用を受けて銀行から債務免除を受けているため、平成11年から、S工業名義ではなく、従業員の20名の名前を借りて個人名義で行なった形をとっている(甲15号証の1)。今回は、合計100万円の献金を行なった。県連への寄付をしなければ自社だけ受注ができなくなると心配して献金したと述べている(甲15号証の2)。

(6) TK建設は、談合による金水トンネルの受注を浅田幹事長に依頼していたので、本件献金要請を断ることができず、これまでの受注実績がなかったにもかかわらず500万円を九州支店の裏金から出して献金した(甲14号証の1~4)。

第4 五洋建設の献金理由と会社の責任
 五洋建設等のゼネコンの自民党長崎県連への献金理由は、長崎県の公共工事に絶大な権限を有する自民党長崎県連、それを実質支配する幹事長に対し、公共工事序受注に際して有利な取扱いをして欲しい又は不利益な取扱いをされたくないということに尽きる。
 以上のごとき献金理由で献金することは、地方公共団体の公共工事の入札という公序を破壊するものである。このような公共工事の入札を金で買収するかのごとき献金は公序良俗に反するものである。

第5 求釈明
 訴外会社においての政治献金の支出は、福岡支店長から本社に稟議を上げ、最終的に副社長が決済するとあるが、1993年(平成5年)から2001年(平成13年)の本件政治献金について、当時の福岡支店長ならびに本社においてその稟議書に関与した取締役の氏名を明らかにされたい。

以上

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