政治資金オンブズマン

東京検察審査会への審査申立書

審査申立書

2004年(平成16年)10月1日

東京検察審査会          御 中

第1 申立の趣旨
 被疑者橋本龍太郎、同瀧川俊行につき、政治資金規正法違反で「起訴相当」の議決を求める。

第2 申立の理由
1 審査申立人
 別紙目録のとおり

2 罪   名
 政治資金規正法違反

3 被 疑 者
 東京都千代田区永田町2-1-2 衆議院会館1-728
   橋 本 龍 太 郎
 東京都千代田区永田町2-10-2 TBRビル714
   瀧 川 俊 行

4 被起訴処分年月日
  平成16年9月26日

5 不起訴処分をした検査官
  東京地方検察庁 検事 山田賀規

6 被疑事実の要旨
(1) 被告発人瀧川俊行は、平成研究会(いわゆる橋本派の政治資金規正法(以下単に「法」という)3条に定める政治団体)の会計責任者であった者であるが、
① 日本歯科医師連盟(日歯連)の代表であった臼田卓夫から2001年(平成13年)7月3日、金1億円の寄付を平成研究会が受けたのであるから、法12条に定める収支報告書を総務大臣に提出するに際してはその寄付を受けた者の氏名、金額、年月日、住所、代表者の氏名を記載すべく規定されていたのに、寄付を受けた者の氏名(日本歯科医師連盟)、金額(100,000,000円)、年月日(平成13年7月3日)住所(東京都千代田区九段北4-1-20)、代表者の氏名(臼田卓夫)を記載せず、2002年(平成14年)3月29日、総務大臣に収支報告書を提出して、
 もって本法25条1項2号に違反し、

② 2003年(平成15年)3月28日、法12条に定める収支報告書を総務大臣に提出するに際してはその真実の収入総額を記載すべく規定されているのに、前記1億円を隠蔽したことによって、真実の収入総額金2,434,679,910円と記載して総務大臣に報告すべきであるのに、それを金2,334,679,910円と虚偽の事実を記載し、
 もって本法25条1項3号に違反したものである。

(2) 被告発人橋本龍太郎は平成研究会の代表者であるが、金1億円の大金をも収支報告書に記載しないで総務大臣に上記の通り提出する者を平成研究会の会計責任者として選任し及び監督について相当の注意を怠り、
 もって本法25条2項に違反したものである。

(3) 罪名及び罰条
   被告発人瀧川俊行は、政治資金規正法25条1項2号及び3号違反。
   被告発人橋本龍太郎は、政治資金規正法25条2項違反。

7 検察官の処分
(1) 東京地方検察庁は瀧川俊行の前記6(1)①の事実は起訴した。しかし、同人に対する(1)②の事実は起訴猶予で不起訴とした。さらに、橋本については上記(2)の事実を嫌疑不十分として、本年9月26日付でいずれも不起訴とした。

(2) 民主党から告発されていた野中、青木氏も不起訴とし、他方、村岡兼造を起訴した。

8 不起訴の処分の不当性
(1) 瀧川俊行の前記6(1)①の事実を起訴したこと、また、村岡兼造を同法違反として起訴したことは当然である。

(2) ① 本事件において上記の処理だけで終了するなら、検察は国民から期待されていることに十分応えていないし、また、以下に述べるように、1億円の入と出について何故このような処理になったのか解明されていない。

② 会計責任者が2001年(平成13年)7月、1億円の小切手を受け取ってから換金した。政治資金規正法9条によると、政治団体の会計責任者は会計帳簿を備え、これには全ての収入と全ての支出(支出を受けた者の名称、住所、その目的、金額、年月日等)を会計帳簿に記載すべく義務づけられている。これを怠ると法24条1号において懲役3年以下の禁固または50万円以下の罰金に処せられる。

③ ところで、検察が押収した会計帳簿にこの1億円が記載されているのか又はいないのかということが最大のポイントである。通常、政治団体の会計責任者は、寄附を受けた1億円の金をどのように会計上処理するか、当時の同政治団体の代表かまたは実質的にそれを支配している者に聞いて会計処理するのが常識である。
 この段階で会計帳簿に1億円の入金が記載されていなければ、この1億円の金は当初からヤミ献金として処理されたことになる。そうだとすれば、2001年7月段階で、これを受け取った橋本、野中、青木の三氏で協議してヤミ献金として処理する旨決定したか、又はこのうちの誰かが会計責任者に指示したことになる。他方、この3人か又はこのうちの誰かが表の献金として処理する旨決定していれば、会計責任者はこれを会計帳簿等に記載するはずである。それが会計責任者の仕事である。この3人又はこのうちの誰かの指示を無視して同人が会計処理をすることはあり得ないし、もしあったとすれば、そのような会計責任者を選任した代表である橋本龍太郎こそ、その選任、監督について相当な注意を怠ったこととなる。

④ 解明すべきは、押収したとされる会計帳簿に1億円の入金が記載されているのかどうかである。もし記載されているとすれば、この3人を不起訴とするのもそれなりに理解できる。本来の会計帳簿に1億円の記載があるのに、それを村岡と瀧川が2002年(平成14年)3月29日の段階で1億円の「入」を収支報告書に記載しなかっただけであるからである。

⑤ しかし、瀧川会計責任者が2001年7月の段階で1億円を会計帳簿等に記載していないとすれば、村岡が関与する以前からヤミ献金として処理されていたのであるから、村岡だけを起訴することは事の真相に迫る起訴とはなり得ない。1億円の受領に立ち会った3人がどのように関与したのかが解明されない限り捜査を尽くしたことにはならず、真相は薮の中に封じ込められ、瀧川、村岡らのトカゲの尻尾切りという批判が妥当となり、国民の期待に反する。

(3) 瀧川俊行について、前記6(1)②の事実を起訴猶予として不起訴としたことについても不当である。1億円が入金されており、且つそれが支出されていないとして本年7月14日に収支報告書が訂正された。それに基づいて申立人らは告発した。
 しかし、この政治団体の平成15年に繰り越された繰越金(当時1,926,012,535円)そのものがほとんど分配され、不存在であると言われている。それが真実だとすれば、本年7月14日の収支報告書の訂正そのものが虚偽記載になる。瀧川会計責任者に対し、犯罪事実はあるが情状により起訴猶予としたのであるが、どの事実が虚偽であったのか明らかでない。すなわち、1億円が訂正収支報告書のとおり繰り越されていたのにそれを記載しなかったから虚偽なのか、そもそも当時の繰越金等はほとんどなく、その結果、繰越金を含む収入を金2,334,679,910円と記載したことが虚偽なのかが明らかでない(この点、担当検事に質問したが回答できないという返事であった)。告発人らの告発事実のとおりであったとしても起訴するのが相当であるし、仮に、繰越金そのものがほとんどなく、収入が金2,334,679,910円でなく虚偽であったとすれば、1億円のみならず繰越金が何に支出されたのかを明らかにするため起訴すべきであった。
 すなわち、入金になった1億円のみならず繰越金がどのように支出されたのか明らかにされなければならない。収支報告書に1億円の入金を記載する以上、それに対応する5万円以上の支出全てを収支報告書に記載し、政治団体の政治活動が国民の監視と批判の下に行われるために法12条においてその支出先が義務づけられているのである。
 平成研究会が本年7月14日に金1億円が繰り越されているとして1億円の支出を明らかにしなかったのである。瀧川会計責任者の平成15年3月の収支報告書の虚偽記載を起訴することにより、この支出を公開の法廷で明らかにすることが求められていたはずである。平成研究会の活動は隠蔽されたままになっている。これについても検察の不起訴処分はきわめて不当であり、起訴すべきである。

(4) 最も問題なのは、橋本龍太郎の不起訴処分である。マスコミの報道等によると、橋本らの指示、関与等がなかったため同人らを不起訴にしたと報道されている。もし検察庁がそのように解釈したとすれば、その解釈は誤りである。何故なら条文には「選任及び監督に相当の注意を怠った」とあり、会計責任者に対し「指示又は関与した」という文言ではないからである。本犯は、会計責任者の「選任及び監督に相当の注意を怠った」という過失犯である。
 会計責任者は1億円という大金を収支報告書に記載しなかったのである。政治家とカネを規正する根本法である政治資金規正法に違反しているのである。もし橋本が全て会計責任者である瀧川に全て委ねていたというのであれば、そのこと自体、過失があることになる。政治団体の代表者として会計責任者を選任、監督する義務があるにもかかわらずその義務を放棄したことになるからである。同人が当初から橋本や上記3名以外の者の指示なく無断で会計帳簿等に記載せずヤミ献金として処理したというのであれば、そのような会計責任者をそのまま放置し続けてきたこと自体に代表者として「過失」があるし、そのような政治資金規正法を平然と無視する会計責任者を解任せず、しかも何らの指導もしないこと自体、監督を怠ったことになる。
 よって、橋本を嫌疑不十分にしたのは不当である。

9 結論
 よって、申立の趣旨記載のとおり申立する次第である。
なお、橋本の前記6(2)のうち一部の事実の公訴時効は来年の3月29日であるので、早急に結論を出されたい。

以上

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