政治資金オンブズマン

那覇地検に意見書を出しました

訂正に訂正を重ねる収支報告書の一部

訂正に訂正を重ねる収支報告書の一部


 

島尻安伊子大臣など1050万円借入金返済不記載等
政治資規正法違反告発事件に関する

意見書

2015年12月8日

那覇地方検察庁 御 中

上脇博之告発人30名告発代理人弁護士33名
代表弁護士    阪口 徳雄

1 収支報告書の「ミス」「訂正」を安易に認める「国会議員の常識」は「健全な市民の法常識」に反し認めてはならない。

被告発人島尻安伊子らは本件告発当日(11月24日)慌てて合計1050万円の「借入金」が残っており、収支報告書を「ミス」として訂正した。自分が代表の政治団体に1050万円の借入金があるのかどうか、島尻安伊子個人が政党支部に「貸金」があるのかどうか、本人が一番詳しいはずである。

しかも議員の参議院への資産報告書や大臣就任に際しての官邸への資産報告書にも「資産」ゼロと報告をしている。このような収支報告書や資産報告書などに「事実と違う」ことを平気で報告し、それが発覚するや「ミス」として訂正すればそれが許されるという国会議員の「法常識」は「市民常識」と著しくかい離し、絶対に認めることはできない。

このようなズサンな会計報告をする政治家は国会議員としても失格であると同時に、特に国の重要な政策を推進する大臣の資質としても不適格であると言わざるを得ない。このような立場から本庁においては、安易に「ミス」を認めないで、会計帳簿などを押収するなどして真相解明の為に厳正に捜査を尽くして頂きたい。

2 島尻安伊子らの収支報告書の「ミス」説に基づく「訂正」も理由がない

(1)2015年11月24日付で告発人らは島尻島尻安伊子、同伊札圭一郎らを御庁に合計1050万円の収支報告書について政治資金規正法第25条1項2号に違反する(不記載罪)として告発した。これを聞いた被告発人らは同日慌てて、収支報告書を「訂正」した。(甲9号証の1、2)この「訂正」によると「借入金」が残っているのに、うっかりして借入金がない旨の報告をしていたというのである。

(2)しかしこのような逃げの弁明はおよそ信用できない。

会計責任者である伊札圭一郎は、収支報告書の記載について全くの素人ではない。専門家の政治資金監査人(公認会計士)は、監査を行い適正であったとお墨付きを与えている。

ア) 2012年(平成24年)分の金400万円はキチント書いている

2013年5月31日に沖縄県選挙管理委員会に提出された自由民主党沖縄県参議院選挙区第二支部の2012年(平成24年)分政治資金収支報告書には、「借入金」の収入として、同支部は、被告発人島尻安伊子から、2012年1月6日に200万円、6月8日に100万円、11月9日と12月7日に各50万円、計400万円を借り入れ、
①「資産等の状況」における「借入先ごとの残高が100万円を超える借入金」につき「有」と記載し、
②「資産等の項目別項目」の「借入先ごとの残高が100万円を超える借入金」として400万円がある旨
記載している。

つまり、同支部は年内に400万円については全額を島尻安伊子に返済しないままだったと適正に記載している。

この段階で2011年(平成23年)分の650万円の「借入金」も返済していないのなら、この2012年(平成24年)分政治資金収支報告書にも400万円以外の650万円も記載するはずである。少なくとも400万円は覚えていたが、もっと大きな650万円は忘れていたという弁明はおよそ信用できない。世間に通用する話ではない。専門家の政治金監査人(公認会計士)の監査を受けて「適正」としている以上、おそらくこの段階では会計帳簿には650万円の「借入金」が残っている記載はなかったのであろう。

おそらく、会計責任者である伊札圭一郎は貸主である島尻島尻安伊子との間では、650万円について前年の2011年段階で返済資金がないなら「支払宥恕」や「債務免除」する旨の明白な合意又は暗黙の合意があったからではないかと思われる。言わば「返済を要求しない、どうでも良いカネ」であったと思われる。だからこそ2011年(平成23年)の収支報告書に650万円に関する借入金を一切記載しなかったと考えるのが一番実態に合致する。

イ) 2013年(平成25年)分の収支報告書に合計1050万円の全額借入金が全額消えている。

告発状記載の通り2013年(平成25年)分の収支報告書に関しても借入金に関する記載が一切ない。前年に400万円の借入金の記載はキチント記載しているのに、翌年の収支報告書に前年の400万円も消えているのである。

おそらく会計責任者である伊札圭一郎は貸主である島尻島尻安伊子と謀議の上で前年の2012年段階で返済資金がないなら「支払宥恕」や「債務免除」する旨の明白な合意又は暗黙の合意があったからではないかと思われる。言わば「返済を要求しない、どうでも良いカネ」であったと思われる。だからこそ2013年(平成25年)の収支報告書にも400万円に関する借入金を一切記載しなかったと思われる。専門家の政治金監査人(公認会計士)は会計帳簿をみて、「適正」のお墨付きを与えている以上、この段階では1050万円の「借入金」が無くなっていたとしか考えられない。

被告発人らのミスという弁明を御庁は信用すべきでない。会計責任者は、その2012年分の収支報告書を見る限り素人ではないし、政治資金監査人も「借入金」が不存在であることを確認しているのである。

このような弁明を許すならば、国会議員の収支報告書は全て「不記載」「虚偽記載」でも「ミス」「訂正」が横行して政治不信を一層助長することになる。

ウ)2014年(平成26年)分の収支報告書(沖縄選管に2015年5月29日届出)においても「資産等の項目別内訳」の「シ借入先ごとの残高が100万円を超える借入金」の記載はなかった(甲11号証)

又「資産等の状況」における「借入先ごとの残高が100万円を超える借入金」につき「無」と記載されていた。

しかし借入金に関する本件告発情報を察知して慌てて合計1155万円の借入金がある旨の訂正を11月24日に行った。(2010年に5万円の借入金もあり、告発状記載の借入金は合計1050万と2014年12月31日の借入金100万円を加算して1155万円と訂正した(甲11号証)

同時に「資産等の状況」における「借入先ごとの残高が100万円を超える借入金」につき「無」から「有」と訂正した。

その後に告発状を詳しく見ると前年までの借入金残金が1050万である(2010年の5万円を告発人が除外していた)ことが判り、前年までの1050万円と2014年12月31日の借入金100万円を加算して1150万と再度同じ日に訂正した(甲11号証)

以上の経過をみる限り、2014年分の収支報告書の提出段階においても「借入金」は一切不存在であった。ばれたから「訂正」したにすぎない。

エ)以上の通り、会計責任者は収支報告書における「借入金」の記載の仕方は熟知しており、単純に「記載ミス」として安易に認めるべきではない。

 実態は「返済を要求しないカネ」であったから会計責任者は故意に「借入金」を記載せず、島尻議員個人もそれを承知していたと思われ、会計監査人も「適正」の監査結果をだしている以上、「借入金」についてはそのような認識であったのであろう。

 「返済を要求しないカネ」については「債務免除」の明示、又は黙示の合意があった場合は「借入金」は名目的には残っていても、実際は借入金を請求しないという事実状態に放置するのであるから、借入金を「債務免除」又は「寄附」金として収支報告書に記載する義務があるところ、それをしなかったのである以上、不記載罪の故意があったと認定すべきである。

3 予備的告発罪の追加

(1)被告発人は、2011年(平成23年)分の収支報告書に「650万円の借入金」があったと告発後の2015年11月24日に訂正した。真実「650万円の借入金」が残っていたとすれば、金「650万円の借入金」があったのに、その事実を記載しないことは政治資金規正法25条1項2号の「不記載罪」に該当するので予備的に告発する。

(2)被告発人は、2012年(平成24年)分の収支報告書に「400万円の借入金」の記載をしていたが「1050万円の借入金」があったと告発後の2015年11月24日に訂正した。真実「650万円の借入金も」残っていたとすれば、合計1050万円の借入金があったのに、その事実を記載しないで金400万円と記載した事実は法25条1項1号の虚偽記載罪に該当するので予備的に告発する

(3)被告発人は、2013年(平成25年)分の収支報告書に金「1050万円の借入金」があったと告発後の2015年11月24日に訂正した。真実「105万の借入金」が残っていたとすれば、金「1050万円の借入金」があったのにその事実を記載しない事実は法25条1項2号の「不記載罪」に該当するので予備的に告発する。

(4)被告発人は、2014年(平成26年)分の収支報告書に金「1150万円の借入金」があったと告発後の2015年11月24日に訂正した。真実「1150万の借入金」が残っていたとすれば、金「1150万円の借入金」があったのにその事実を記載しない事実は法25条1項2号の「不記載罪」に該当するのでこれも予備的に告発する。

(5)被告発人らは、「借入金」については上記のとおり長年記載していない。島尻は貸した本人であり、伊札圭一郎は会計責任者で「言わばプロ」であり、会計の専門家(公認会計士)である政治資金監査人もそれを肯定している以上、安易に「記載ミス」を認めるべきではないが、仮に借入金が残っていたというなら、借入金に関して「未必の故意」があったのであるから、上記の通り予備的告発を認めるべきである。

証拠目録

甲9号証      2012年(平成24年)分の訂正後の収支報告書
甲10号証     2013年(平成25年)分の訂正後の収支報告書
甲11号証     2014年(平成26年)分の収支報告書

Pocket